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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

魚と大腸がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんなどのリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を系統的に収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。

関連の強さについては、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、科学的根拠としての信頼性については、研究班のメンバーによる総合的な判断によって「確実」「ほぼ確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価についても考慮しました。さらに、関連が「確実」あるいは「ほぼ確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。


 

評価基準
関係強度 定義 記号
相対リスク 統計的有意性
強い RR<0.5 または RR>2.0 SS ↑↑↑または↓↓↓
中程度 RR<0.5 or RR>2.0 NS ↑↑または↓↓
  1.5<RR≦2.0 SS  
  0.5≦RR<0.67 SS  
弱い 1.5<RR≦2.0 NS ↑または↓
  0.5≦RR<0.67 NS  
  0.67≦RR<1.5 SS  
関係なし 0.67≦RR≦1.5 NS

RR, 相対リスク; SS, 統計的に有意; NS, 統計的に有意でない


 

その研究の一環として、このたび、魚と大腸がんについての評価の結果を専門誌に報告しました(Jpn J Clin Oncol. 2013年43巻935-941ページ)。

 

魚と大腸がんリスクの関係に関する研究の経緯

日本では戦後、大腸がんが顕著に増加し、現在では罹患率が世界で最も高い国のひとつになっています。大腸がんの増加はライフスタイルの変化に起因すると考えられており、動物性脂肪・肉の摂取量の増加や繊維・穀物の摂取量の減少といった食生活の変化によるところが大きいと考えられています。日本人がよく食べる魚にはn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれていますが、大腸がんの発生に対してn-3系多価不飽和脂肪酸が予防的に働くメカニズムがいくつか挙げられ、世界がん研究基金と米国がん研究機関(WCRF/AICR)は魚摂取が大腸がんリスクを低下させる可能性があると結論づけています。

 

今回の研究では、魚と大腸がんの関連について日本におけるこれまでの研究を系統的にレビューしました。

 

2012年11月までに発表された日本人を対照にした魚と大腸がんに関する疫学研究を検索した結果、5件のコホート研究(表1)と12件の症例対照研究(表2)が評価対象として選ばれました。

 


 

表1)日本人を対象とした魚と大腸がんリスクに関するコホート研究のまとめ
文献番号 研究期間 対象集団   関連の度合い
性別 対象者人数 年齢範囲 転帰 症例数   結腸 直腸 大腸
1 1965–1982 122,261 40歳以上 がん死亡 564   該当なし
    142,857 40歳以上 がん死亡 551   ↓↓ 該当なし
2 1984–2002 1,524 41歳以上 がん死亡 15   該当なし 該当なし
    1,634 40歳以上 がん死亡 14   該当なし 該当なし
3 1988–1999 45,181 40–79歳 がん死亡 254   該当なし
    62,643 40–79歳 がん死亡 203   該当なし
4 1990–1999 42,525 40–69歳 がん罹患 454   該当なし
    46,133 40–69歳 がん罹患 251   該当なし
5 1995–2003 24,573 40–79歳 がん罹患 379  
    26,680 40–79歳 がん罹患 187  
1 Hirayama T. Lifestyle and mortality: a large-scale census-based cohort study in Japan. In: Wahrendorf J, editor. Contributions to Epidemiology and Biostatistics. Basel: Karger 1990.
2 Khan MM, Goto R, Kobayashi K, et al. Dietary habits and cancer mortality among middle aged and older Japanese living in Hokkaido, Japan by cancer site and sex. Asian Pac J Cancer Prev 2004;5:58–65.
3 Kojima M, Wakai K, Tamakoshi K, et al. Diet and colorectal cancer mortality: results from the Japan Collaborative Cohort Study. Nutr Cancer 2004;50:23–32.
4 Kobayashi M, Tsubono Y, Otani T, Hanaoka T, Sobue T, Tsugane S. Fish, long-chain n-3 polyunsaturated fatty acids, and risk of colorectal cancer in middle-aged Japanese: the JPHC study. Nutr Cancer 2004;49:32–40.
5 Sugawara Y, Kuriyama S, Kakizaki M, et al. Fish consumption and the risk of colorectal cancer: the Ohsaki Cohort Study. Br J Cancer 2009;101:849–54.

 

 


 

 

表2)日本人を対象とした魚と大腸がんリスクに関する症例対照研究のまとめ
文献番号 研究期間 対象集団   関連の度合い
性別 年齢範囲 症例数 対照数   結腸 直腸 大腸
1 1967–1973 男女 指定なし 205 408   該当なし
2 1977–1983 男女 指定なし 203 (男:110, 女:93) 203 (男:110, 女:93)   該当なし
3 1981–1983 40–79歳 52 111   ↑↑ 該当なし
4 1986–1990 男女 指定なし 223 578   該当なし
5 1984–1990 男女 40–69歳 181 (男:98, 女:83) 653 (男:343, 女:310)   該当なし
6 1988–1992 指定なし 257 8,621   該当なし
    指定なし 175 23,161   該当なし
7 1992–1994 男女 指定なし 363 (男:214, 女:149) 363 (男:214, 女:149)   該当なし
8 1987–1990 男女 指定なし 330 (男:171, 女:159) 660 (男:342, 女:318)   該当なし
9 1986–1994 男女 40–84歳 100 (男:77, 女:23) 265 (NA)   該当なし
10 1989–1997 指定なし 267 395   該当なし
11 1988–1999 40–79歳 976 14,601   該当なし
    40–79歳 639 32,285   該当なし
12 2000–2003 男女 20–74歳 782 793   ↓(遠位)
1 Kondo R. Epidemiological study on cancer of the colon and the rectum. II. Etiological factors in cancer of the colon and the rectum. Nagoya Med J 1975;97:93–116 (in Japanese).
2 Watanabe Y, Tada M, Kawamoto K, et al. A case–control study of cancer of the rectum and colon. Nippon Shokakibyo Gakkai Zasshi 1984;81:185–93 (in Japanese).
3 Tajima K, Tominaga S. Dietary habits and gastrointestinal cancers: a comparative case–control study of stomach and large intestinal cancers in Nagoya, Japan. Jpn J Cancer Res 1985;76:705–16.
4 Kato I, Tominaga S, Matsuura A, Yoshii Y, Shirai M, Kobayashi S. A comparative case–control study of colorectal cancer and adenoma. Jpn J Cancer Res 1990;81:1101–8.
5 Hoshiyama Y, Sekine T, Sasaba T. A case–control study of colorectal cancer and its relation to diet, cigarettes, and alcohol consumption in Saitama prefecture, Japan. Tohoku J Exp Med 1993;171:153–65.
6 Inoue M, Tajima K, Hirose K, et al. Subsite-specific risk factors for colorectal cancer: a hospital-based case–control study in Japan. Cancer Causes Control 1995;6:14–22.
7 Kotake K, Koyama Y, Nasu J, Fukutomi T, Yamaguchi N. Relation of family history of cancer and environmental factors to the risk of colorectal cancer: a case–control study. Jpn J Clin Oncol 1995;25:195–202.
8 Nishi M, Yoshida K, Hirata K, Miyake H. Eating habits and colorectal cancer. Oncol Rep 1997;4:995–8.
9 Ping Y, Ogushi Y, Okada Y, Haruki Y, Okazaki I, Ogawa T. Lifestyle and colorectal cancer: a case–control study. Environ Health Prev Med 1998;3:146–51.
10 Murata M, Tagawa M,Watanabe S, Kimura H, Takeshita T, Morimoto K. Genotype difference of aldehyde dehydrogenase 2 gene in alcohol drinkers influences the incidence of Japanese colorectal cancer patients. Jpn J Cancer Res 1999;90:711–9.
11 Yang CX, Takezaki T, Hirose K, Inoue M, Huang XE, Tajima K. Fish consumption and colorectal cancer: a case-reference study in Japan. Eur J Cancer Prev 2003;12:109–15.
12 Kimura Y, Kono S, Toyomura K, et al. Meat, fish and fat intake in relation to subsite-specific risk of colorectal cancer: The Fukuoka Colorectal Cancer Study. Cancer Sci 2007;98:590–7.

 


 

 

2つの表に見られるように、コホート研究、症例対照研究のいずれも一貫した関連性はみられず、関連を認めている研究についても、その方向はまちまちでした。そこで、各研究から得られた推計値を統合するメタアナリシスという手法で総合リスクを算出しました。そうすると、コホート研究では有意なリスクの上昇または下降が見られませんでしたが、症例対照研究では、大腸がんについてOR=0.84、95%信頼区間0.75 – 0.94となり、有意なリスクの低下が見られました。ただし、症例対照研究の結果は、思い出しバイアスの影響を受けるなどの理由により、注意深く解釈する必要があります。

 

結論

今回のレビュー結果および生物学的機序を総合的に検討した上で、日本人において魚と大腸がんの関連を決定づける科学的根拠は不十分という結論になりました。

この結果は、主に欧米で行われた研究をまとめた最近の系統的レビューやメタアナリシスにおける、魚による大腸がんリスク低下の報告とは一致しませんでした。その理由の1つに、日本人の平均的な魚の摂取量は欧米よりもはるかに多いために、より多く食べているグループの予防効果がみられないのではないかということが考えられます。その他にも、よく食べられている魚の種類の違いや調理方法、加工方法の違いなどが考えられます。

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