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多目的コホート研究(JPHC Study)

アンケート調査への回答者と非回答者における死亡率の経年変化の比:

JPHC Study Cohort I の10年間追跡結果

私たちは、どのような特性を持つ人々が、がんや循環器系疾患に罹ったり、それらの疾患で死亡 したりする確率が高いのか、あるいは低いのかを明らかにし、予防に役立てるために、全国の約10万人を対象にコホー ト研究と呼ばれる疫学研究を行っています。そのうちの約5万人に1990から1992年に生活習慣などに関するアンケート 調査を行い、男性の77%、女性の82%の方に回答していただきました。

回答者と非回答者の1999年までの生存率を比較したところ、回答した人のほうが回答しなかった人に比べ生存率が高いことが明らかになりました。このような現 象は、これまでに行われてきた疫学研究でも認められており、疫学研究への参加者のほうが非参加者よりも死亡率が 低いという現象は"健康参加者効果Healthy volunteer effect (HVE)"とよばれています。今後、アンケート回答者の データを用いて、様々な要因と死亡リスクの関連を明らかにするために研究を進めていくわけですが、得られた結果 を一般化する際にこの回答者自体がどのような集団であるかを把握しておく必要があります。

そこで、中年期 (40− 59歳)の地域住民を対象とした本コホート研究において、"HVE"の実態を明らかにするために、その大きさと継続期間 を死因別に検討し、その成果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(Journal of Clinical Epidemiology 2002年 55巻 150-156ページ)。

総死亡・がん死亡・循環器系疾患死亡の相対リスク

開始時の質問票調査に回答した人の死亡リスクを1とした場合の回答しなかった人の相対リスクを、 観察開始から2年未満(0-2)、2年以上4年未満(2-4)、4年以上6年未満(4-6)、6年以上8年未満(6-8)、8年以上(8-)の5つ に期間を区切って計算しました。つまり、回答しなかった人の死亡リスクが回答した人の死亡リスクよりも高い場合は、 相対リスクは1より大きい値になります。

図1.総死亡

まず総死亡ですが、回答しなかった人の相対リスクは男女ともに全期間を通じて統計学的有意 に高く、特に最初の1-2年で最も高いことが分かりました。

図2.がん死亡

がん死亡については、回答しなかった人の相対リスクは男女ともに最初の1-2年のみ有意に高く、 それ以降では統計学的に有意な差はありませんでした。

図3.男性

循環器系疾患死亡については、女性では数が少なかったため、期間を区切って計算することがで きませんでしたが、全期間をとおしての非回答者の死亡リスクは、虚血性心疾患では回答者の死亡リスクと差がなく、 循環器系疾患全体と脳血管障害では非回答者の相対リスクが有意に高いという結果でした。

男性について期間を区切ってみると、循環器系疾患全体と脳血管障害では6−8年以外のいずれ の期間でも相対リスクの統計学的に有意な上昇が見られた。相対リスクは、減少するという傾向はなく、ほぼ一定に 高いことから、7−8年で統計学的に有意な上昇が見られなかったのは、偶然起こったと考えられます。一方、虚血性 心疾患では、いずれの期間でも非回答者の死亡リスクは、回答者の死亡リスクと差が認められませんでした。

非回答者の死亡リスクが、回答者の死亡リスクより高いことを規定する要因として、開始時点 ですでに質問票に回答できないほどの致死的な疾病にかかっている人で、病気のため回答できないという場合と、健 康意識が低い人が選択的に健康関連のアンケート調査への非回答者となる場合が考えられます。がん死亡に関しては、 非回答者の死亡リスクが、回答者の死亡リスクより高いという現象は最初の2年間のみに見られて、その後すぐに見 られなくなることから、前者の場合と推測されます。一方、脳血管疾患死亡については、期間によらず、相対リスク の上昇があることから、前者の場合だけでは、説明がつきません。

これまでに行われてきた研究から、非回答者は肥 満が多く、運動習慣を持つ人が少なく、喫煙習慣などが多く、健康意識が低いと報告されています。このような性質 は、脳血管障害の既知の危険因子であると考えられます。脳血管疾患死亡の場合、後者の要因も加わっている可能が 想定されます。

今回の結果からは、健康参加者効果(HVE)は中年期の地域住民の間でも認められ、その期間や 大きさは死因によって異なっていることが明らかになりました。虚血性心疾患に関しては、HVEの影響は小さく、が んについては初めの2年間を除外することにより、ほぼ制御することができると考えられました。しかし、全死亡や 循環器疾患死亡については、初めの2年間を除いてもその後も死亡率比の上昇が残存するため、HVEの影響制御する ことは難しいと考えられます。また脳血管疾患死亡に関しては、観察期間を制限することによりHVEの影響を制御 することは出来ないと考えられました。

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