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多目的コホート研究(JPHC Study)

家族構成と虚血性心疾患発症リスクとの関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約9万人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、家族構成と虚血性心疾患発症との関連を調べた結果を海外学術雑誌に発表しましたのでご紹介します。
(Heart 2009年4月 95巻577-583ページ)

家族構成は虚血性心疾患発症にどのように関わるのか

家族構成が健康に及ぼす影響については、欧米を中心に多くの先行研究が行われています。その中で、独り暮らしや結婚していないグループでは既婚者グループに比べ虚血性心疾患の発症や進行のリスクが高いことが示され、社会的な孤立の影響が考えられています。一方で、日本を含めたアジアにおける多世代家族では、欧米とは異なる健康影響があるかもしれません。多世代家族における女性の生活習慣を調べた結果、単身あるいは夫婦のみの女性と比べ、喫煙者や大量飲酒者の割合が低い一方、定期的な運動や健康診断への受診が少ないとする報告があります。すなわち、健康的な生活習慣と不健康なものが混在しているのです。しかしながら、これまで多世代にわたる家族構成と虚血性心疾患発症リスクの関連を検討した報告はありませんでした。

今回の研究では、研究開始時に、家族構成についての質問を行っています。その質問に対する回答を①一人暮らし、②配偶者、③配偶者・子ども、④配偶者・子ども・親、⑤親、⑥子ども、⑦親・子ども、⑧その他、に分けて、その後の虚血性心疾患の発症リスクについて比較を行いました。

夫婦に加えて子どもや親と暮らしている女性では、虚血性心疾患発症リスクが高い

平均約11年の追跡期間中に、新たに662人(男性500人、女性162人)の虚血性心疾患発症、339人の虚血性心疾患死亡、6255人の死亡を確認しました。分析の結果、夫婦のみで暮らしている女性と比べて、夫婦に加えて子どもや親と同居している女性、あるいは子どもだけと同居している女性では虚血性心疾患の発症リスクが高く、夫婦に加えて親と同居している女性では3.0倍、子どもと同居している女性では2.1倍、親および子どもと同居している女性では2.0倍でした。これに対して、男性では家族構成と虚血性心疾患発症リスクとの間に統計的に有意な関係は見られませんでした(図1)。

また、男性でも女性でも、虚血性心疾患死亡や総死亡について、夫婦に加えて親と子どもと同居する多世代家族でリスクが高くなることはありませんでした。

図1.家族構成と虚血性心疾患の発症リスク

 
女性の家族構成と生活習慣との関係を見ると、夫婦のみで暮らしている女性と比べて、夫婦に加えて子どもや親と共に暮らしている女性では、虚血性心疾患の危険因子である喫煙者や大量飲酒者の割合が低いにも関わらず、何らかの仕事に従事している人や日常のストレスが多い人、身体活動量が少ない人の割合が高いという特徴がみられました。

虚血性心疾患発症と危険因子の不一致:女性の家族内における役割が影響?

夫婦に加えて子どもや親と共に暮らしている女性は、単身あるいは夫婦のみの女性と比べて虚血性心疾患の発症リスクが高いと結果が見られました。その理由として、家庭内外で要求される多面的な役割からより大きなストレスが加わり、虚血性心疾患の発症リスクが高くなるという可能性が考えられます。ただし、家族構成以外の社会支援状況などについては今回の研究では把握していないために、その影響を考慮することができませんでした。

家族は社会における基本的なつながりの1つであり、健康の維持・改善においても良い影響を与えることが過去の研究で指摘されています。また、以前に同じコホート研究から、働く高学歴女性では家庭での役割が多いと脳卒中の発症リスクが軽減されるという結果を報告しています。しかしながら、家族構成が健康に与える影響は、文化や時代などそれぞれの集団の背景や性別・教育歴などの個人個人の背景によってだけでなく、疾患によっても異なる可能性があり、単純には考えられないことがうかがわれます。

日本では、高齢化や女性の社会進出が急速に進み、家庭内での女性の役割はますます複雑化し、女性の健康に対する負の影響が顕在化してくる可能性があります。今後さらに研究が進める必要がありますが、家族が持つ良い影響を維持しつつ、健康に悪い影響が見られる部分についてはそれを補うような社会支援政策が必要とされるでしょう。

 

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