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多目的コホート研究(JPHC Study)

脳卒中・心筋梗塞の自己申告データの正確さについて

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

健康に関するアンケート調査で、脳卒中や心筋梗塞などの特定の病気にかかったことがあるかどうか(既往歴)についてたずねることがよくあります。私たちの多目的コホート研究でも、研究開始時、5年後・10年後・15年後のアンケート調査で、病気の既往歴について質問しました。それらのデータは、コホート研究(健康な集団を長期間、病気の発症について追跡調査する研究)の対象者に特定の病気のある人を含めないようにすることで、結果の精度を高くするためなどに用いられます。また、病気の発症を知るための1つのきっかけとして用いられることもあります。しかしながら、アンケート調査への回答が、どの程度実際の病気の既往歴を正確に反映しているかは、医療記録などの証拠を調べて裏付けをとらなければわかりません。その妥当性を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。
J Clin Epidemiol. 2009年62巻667-673頁

アンケート調査の脳卒中・心筋梗塞既往の自己申告の信頼性

多目的コホート研究の追跡調査では、対象集団から発生したがん、脳卒中、心筋梗塞を把握し、登録をすることにしています。これまでに、がんの既往歴については、研究開始時と5年後のアンケート調査による自己申告の結果と、それまでの5年間のがんの登録症例を照らし合わせて、自己申告には限界があることを確認しています。

今回の研究では、脳卒中と心筋梗塞の既往歴の正確さを調べるために、10年後のアンケート調査の結果と、それまでの10年間の追跡調査による登録症例を照らし合わせました。研究の対象者は、コホートⅠ(葛飾を除く)とコホートⅡ(吹田を除く)の参加者で、10年後調査に回答した91,186人です。このうち、研究の開始以前に脳卒中や心筋梗塞にかかっていた人を除く約9万人のデータを分析しました。

脳卒中の感度は73%、心筋梗塞の感度は82%、陽性適中率は高くはない

対象となった方から、追跡調査の結果、10年間で1,447人が初めての脳卒中に罹り、登録されました。一方、10年後調査では1,848人が過去10年間に脳卒中に罹ったと回答しました。この1,848人が登録された1,447人と一致しないのは、実際には脳卒中に罹っていないのに「罹った」と回答した人や、実際に脳卒中に罹ったのに「罹った」と回答しない人がいたためと考えられます。

照合の結果、脳卒中に罹ったと正しく回答した人は1,051人で、脳卒中に罹ったと回答した1,848人全体の57%でした。つまり、このアンケート調査で脳卒中だと答えた人が本当に脳卒中である確率(陽性反応的中率)は57%で、逆に言えば43%の確率で脳卒中ではない人を脳卒中であると誤って把握することになります。

一方、追跡調査で脳卒中が確認された1,447人のうち、アンケート調査でも正しく回答していた方が1,051人(73%)いたことから、脳卒中に罹った人は73%の確率でこのアンケート調査に正しく答えたといえます。この場合、感度が73%であったといいます。

同様に心筋梗塞について分析すると、陽性反応的中率は43%、感度は82%でした。10年後調査のアンケート調査では、狭心症の既往も聞いています。心筋梗塞と狭心症の既往について、登録された心筋梗塞を検討すると、感度は89%に上昇しますが、陽性反応的中率は18%に低下しました。

なお、大規模なコホート研究では病気に罹らない人が圧倒的多数となるため、陰性反応的中率*や特異度**は99~100%になります。

*  陰性反応的中率:アンケート調査で病気であると答えなかった人のうち、実際に病気に罹っていなかった人の割合
** 特異度:実際に病気に罹っていなかった人のうち、アンケート調査で病気であると答えなかった人の割合


この研究結果からわかること

このことから、何が言えるでしょうか。コホート研究では、研究開始時に病気とわかった人を対象に含めないと先に述べました。つまり、アンケート調査で既往歴のある人を調べて、対象から除外するのが一般的なやり方です。脳卒中の感度が73%、心筋梗塞の感度が82%ということは、もともと脳卒中のある方の約7割、心筋梗塞のある方の約8割はこの質問に正しく答えていたということになります。多少の見落としがありますが、コホート研究の結果の正確さには大きく影響を与えるものではありませんので、おおむねこのデータを採用して構わないと判断できます。

一方、多目的コホート研究では、がんや脳卒中、心筋梗塞について、保健所を通して、病院や主治医の先生方のご協力を得ながら可能な限り正確な情報を収集するように努めています。そして、5年後や10年後に実施したアンケートの結果だけで対象者の方の病気に罹ったかどうかを判断していません。もし仮に、アンケート調査による自己申告だけのデータを採用すると、今回の結果から分かったように、病気に罹った人の20~30%は見落とされ、しかも病気に罹ったとして登録された人のうち半数以上は、実際には罹っていなかったということになります。これでは、原因と病気の関連について、信頼性の高い結果を得ることができません。

がんと同様、日本人にとって重大な死因となる脳卒中や心筋梗塞の予防法の解明や実態の把握のためには、法的に整備された疾病登録が望まれます。病気に罹ったかどうかの情報は、自己申告に頼ることなく、綿密に計画された疾病登録を行うことが必要です。そうしないと、がんばかりでなく、脳卒中や心筋梗塞についても、正確な研究成果を得るのは難しいということが、改めて明らかになりました。

 

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