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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)濃度と胃がん発生率との関連

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2013年現在)管内にお住まいだった方々のうち、アンケート情報と血液を提供いただいた40~69才の男女約3万7千人の方々を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血中活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)濃度と胃がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (European Journal of Epidemiology 2015年30巻589-94ページ

スーパーオキシド、過酸化水素などに代表されるような活性酸素種(ROS)は通常の生理作用でも発生し、シグナル伝達などの重要な役割を果たすと同時に、体内の他の成分と反応し、悪影響をもたらすことも知られています。たとえば、酸化ストレスが存在する条件下では過剰のROSはDNAの損傷、細胞のダメージを介して発がんへと結びつくと考えられています。実際に萎縮性胃炎のある方ではピロリ菌陰性者に比べて陽性者の血中ROSレベルが高いことや、喫煙、飲酒、肥満その他の環境要因などがROS高値と関連があるとの報告もあります。

胃がんに関わる要因としてピロリ菌はよく知られていますが、感染者のうち胃がんに罹患する人は一部に過ぎません。ピロリ菌の感染状況も考慮に入れた上で、胃がんの発生に関わる要因を探ることは重要です。そこで、多目的コホートにおいて血中ROS濃度と胃がんとの関連について検討いたしました。

 

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究の対象者約10万人のうち、研究開始時に健康診査等の機会(1990年から1995年まで)を利用して、男性約13500人、女性約23300人から研究目的で血液を提供していただきました。2004年末までの追跡期間中に発生した胃がんのうち、関連データが不足していない胃がん495人の1例ずつに対し、胃がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチさせた1人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計990人を今回の研究の分析対象としました。

保存血液を用いて血中ROS濃度を測定し、それぞれ値によって最も低いグループから最も高いグループまでの5つのグループに分け、胃がんリスクを比較しました。

胃がんリスクについては、把握できている他の要因(胃がんの家族歴、喫煙、飲酒、肥満指数、ピロリ菌感染、高塩分食摂取)の影響をできる限り取り除いて検討しました。

 

血中ROS濃度と胃がんとの関連はみられず

ROSの中央値は症例で120U、対照で119Uでした。感染状況や環境要因で補正しても胃がんとの関連性は特にみられないという結果でした。感染状況や環境要因など、様々な条件別に分けて同様の解析を行ったところ、喫煙者と飲酒者ではROS高値により胃がんのリスクが高まることが分かりました。ROS濃度最大群での胃がんリスクは喫煙者で1.95倍、飲酒者では2.29倍との結果です。ピロリ菌などの感染状況やその他の環境要因で分けてもこのような関連は見られませんでした。

 

224図

 

この研究について

血中のROSと胃がんとの関連を前向き研究で検討したのは今のところこの研究が初めてです。結果として、ROSは全体としては胃がんの発生との間に関連はみられませんでした。今回検討した中では、喫煙者や飲酒者でROSと胃がんとの間に関連がみられました。これは、ROSの値に影響を及ぼすような外的要因がROS高値を引き起こし、最終的には細胞毒性をもたらすという考えを支持します。喫煙と胃がんとの関連は国内外の研究からも確実とされていますが、飲酒についてはエビデンスは十分ではありません。今回の結果は胃がん発生に寄与する飲酒の役割を示唆する側面もあります。

これまでの研究結果から、胃がんのリスク要因としては、ピロリ菌感染の他、塩分高摂取や野菜果物の低摂取、喫煙などの影響が大きいと考えられます。これらの要因についてまず生活習慣を見直して、胃がんになるのを予防すると同時に、胃がん検診を定期的に受診することにより、胃がんを早期に発見・治療することが重要です。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

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