トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >教育歴と自殺のリスクとの関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

教育歴と自殺のリスクとの関連について

—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称2014年現在)管内にお住まいの40~59歳の男女約5万人の方々を平成23年(2011年)まで約22年間追跡した調査結果に基づいて、教育歴と自殺のリスクとの関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (J Epdemiol.2016 Jun 5;26(6):315-21)

 

 

自殺のリスクは教育歴によって異なるか

欧米の研究では、教育歴が低い人は、高い人と比べて自殺のリスクが高いことが報告されています。しかし、日本における教育歴と自殺のリスクとの関連を調べた報告は少なく、よくわかっていません。教育歴は社会経済的状況の主要な指標の一つであり、これまでの本研究グループからの報告にもみられるように、がん、循環器疾患に加え、身体機能障害や歯の健康など、生活の質(QOL)に関わる健康事象とも関連が深い指標であることがわかりつつあります。教育歴と健康について検討することは、どのように教育環境の整備をしたら健康増進につながるか、ということを考える重要なエビデンスとなります。

今回の研究では、研究開始時に行った最終学歴に関するアンケートから、 (1)中学卒業、(2)高校卒業、(3)短大、専門学校卒業、(4)大学卒業またはそれ以上の4つのグループにわけ、自殺による死亡リスクを比較しました。約21年間の追跡期間中に、299人の自殺による死亡が確認されました。

 

 

教育歴の高いグループで男女共に自殺のリスクが低い

中学卒業の教育歴をもつグループと比較して、男性では、大学卒業またはそれ以上のグループの自殺のリスクは53%低く、女性においては、高校卒業グループの自殺のリスクは56%低いという結果でした(図1)。

 

 

今回の結果から、日本においても、欧米と同様に、自殺のリスクに教育歴による差が存在することが示されました。また、中学卒業の教育歴をもつグループは、男女ともに、配偶者と同居する割合が低く、また、フルタイムで働く者の割合が少ないという傾向がみられました。

 

 

女性では教育歴が自殺のリスクに与える影響が年齢によって異なる

 

女性において年齢別に解析した結果、1990年当時、40~49歳であった女性では、中学卒業の教育歴をもつグループに比べて、高校卒業グループの自殺のリスクが79%低いことが示されました。一方でこの傾向は50~59歳ではみられませんでした(図2)。学校教育法が1947年に改正されたことによって教育制度が変化したことや、高度経済成長など社会情勢の変化によって、社会における女性の役割や労働環境が変化したこと影響しているのかもしれません。

 

 

教育歴と自殺のリスクとの関連について、今回の研究では考慮できていない収入などの社会経済要因が複雑に絡み合っている可能性があります。また、社会における教育歴の位置づけや、教育システムなどが今後変化することにより、教育歴が自殺のリスクに与える影響は変化する可能性があります。

今後も教育歴やその他の社会経済要因と自殺のリスクとの関連についてさらに検討していく必要があります。

 

上に戻る