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現在までの成果

就労状況の変化と脳卒中発症・死亡リスクとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいで5年後調査時に45~59歳の男女約4万2千人の方々を約15年間追跡した調査結果にもとづいて、就労状況の変化と脳卒中発症との関連を調べた結果を発表しましたので紹介します(Stroke 2017年5月)。

 

就労状況の変化と脳卒中発症・死亡リスク

就労状況は健康に影響を与える重要な要因のひとつであり、一般に、失業者は就労者に比べて健康状態が悪いことが報告されています。しかし、失業後に再び就労した場合の健康影響については明らかではありません。先行研究の多くは、気分の低下や抑うつなどの精神的健康に焦点をあてた短期的影響を観察したものであり、長期的な身体的健康への影響に関する検討は限られています。そこで、本研究では、就労状況の変化が、その後の脳卒中発症ならびに死亡のリスクにどのような影響を与えているかを男女別に分析しました。
今回の研究では、アンケート調査の結果を用いて、研究開始時の就労状況と5年後の調査時の就労状況から、就労状況の変化を、①継続して有職、②仕事を失った(有職から無職へ)、③再就労した(無職から有職へ)、④継続して無職の4つに分類し、その後の脳卒中発症・死亡のリスクを算定しました。

 

無職の経験がある人の脳卒中のリスクが高い

平均約15年間の追跡期間中に確認された脳卒中発症・死亡の人数は、男性において発症973人・死亡275人、女性において発症460人・死亡131人でした。
継続の有職者と比べて、無職の経験のある者(継続して無職、仕事を失った、再就労した)は、男女とも脳卒中の発症ならびに死亡のリスクが高いことが確認されました(図1)。

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男性では再就労された人の脳卒中のリスクも高い

また、継続の有職者と比べて、仕事を失った人では、脳卒中の発症リスクが男性で1.58倍、女性で1.51倍であり、脳卒中死亡リスクが男性で2.22倍、女性で2.48倍と高い値を示しました。また、再就労した男性では、脳卒中の発症リスクが2.96倍および死亡リスクが4.21倍と高率でしたが、女性では明らかな関連はみられませんでした(図2)。 

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なぜ失業経験者の脳卒中リスクが上昇するのか?

失業の経験が脳卒中リスクを上昇させる理由として、失業による生活習慣や精神状態の変化が考えられます。これまでの先行研究により、職を失うと飲酒量が増えたり、抑うつなどの精神健康が悪化したり、精神的ストレスが増加したり、社会的排除による孤独などが起こる傾向があります。このような職業を失うことにより起こる様々な変化が脳卒中リスクを上昇させているのではないかと考えられます。

 

なぜ再就労者の脳卒中リスクが上昇するのか?

欧米の先行研究では再就労することによる良い健康影響が指摘されています。たとえば、生活習慣の改善、経済的安定による精神的ストレスの減少などです。しかし、今回の結果からは、再就労したことによる脳卒中リスクの上昇がみられました。この理由としては、たとえば、再び得た職業を失わないために無理をすることや、失職を恐れることによる精神的ストレスの増加などが考えられます。

 

この研究について

今回の研究は、日本において就労状況の変化と脳卒中リスクの関連を示した初めての研究です。しかしながら、人によっては研究期間中にさらに就労状況等が変化している可能性がありますが、その点について考慮することができませんでした。

無職の経験と脳卒中発症リスクの関連ではおおきな性差はみられませんでしたが、再就労の影響において男性の方が女性に比べて大きく、性差がみられました。男性の再就労者や失職者での脳卒中リスクが、継続的に就労している人よりも高いことは、再就労者や失職者の健康管理にも注意する必要がある、と考えられます。

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