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多目的コホート研究(JPHC Study)

喫煙、飲酒と骨髄異形成症候群罹患リスクについて

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2017年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約9万5千人の方々を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、喫煙、飲酒と骨髄異形成症候群(MDS)罹患率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Br J Haematol.2017 Sep;178(5):747-755)。

 

骨髄異形成症候群(MDS)とは

MDSとは、骨髄中の造血幹細胞の異常により、正常な血液細胞が作られなくなる病気です。一部の症例では、MDSが進行し「芽球」と呼ばれる未熟な細胞が増加し急性骨髄性白血病に移行することがあります。MDSは治療が難しく、MDSの危険因子を知ることは、病気の予防のために重要です。

 

喫煙、飲酒とMDS

喫煙と飲酒によりMDSのリスクが増加するかどうかについて検討した疫学研究は海外のものを含めても限られています。これまでの限られた研究結果からは、喫煙によってMDSのリスクが上昇することがほとんどの研究で示されていますが、飲酒によりMDSのリスクが上がるかどうかについては、結果が一致していません。また、アジアと欧米では診断時の年齢や頻度の多いタイプなどMDSの特徴が異なるという報告があり、日本を含むアジアでの検討が必要です。そこで、本研究では日本人を対象とするコホート研究で喫煙、飲酒とMDS罹患リスクとの関連を検討しました。

調査開始時のアンケート調査で、飲酒習慣の項目についての回答をもとに、お酒を「飲まない(月に1回未満)」グループ、「時々飲む(月に1-3回)」グループ、「飲む(エタノール換算で週300g未満)」グループ、「飲む(エタノール換算で週300g以上)」グループの4つのグループに分けました。喫煙については、「吸わない」グループ、「やめた」グループ、「吸う」グループの3つのグループに分けました。喫煙についてはさらに、「やめた」グループと「吸う」グループを喫煙指数(パックイヤー:たばこ1箱を20本として、1日当たりの喫煙箱数と喫煙年数を掛けあわせた値)によって2つのグループに分け、「吸わない」グループと合わせて3つのグループにも分けました。 平均で約18年の追跡期間中に、70人(男性50人、女性20人)のMDS罹患が確認されました。年齢、性別、居住地域の偏りが結果に影響しないように考慮して、喫煙、飲酒とMDS罹患率との関連を検討しました。

 

飲酒でMDSのリスクが低くなる

結果として、男性において習慣的にお酒を飲む人のうち週あたりのお酒の摂取量がエタノール換算300g未満のグループは、お酒を飲まないグループと比べてMDSのリスクが0.37倍であり、統計学的に有意にMDSのリスクが低下していました(* P<0.05)。さらに、飲む量が増えるほどリスクが下がる傾向が、統計学的に有意に認められました(図1)。女性では、MDSに罹患した人の数が少ないため、飲酒とMDS罹患率との関連ははっきりしませんでした。

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たばこを吸うとMDSのリスクが約2倍になる

男性では、だばこを「やめた」グループと「吸う」グループは「吸わない」グループに比べて、MDSのリスクがそれぞれ2.2倍、2.1倍であり、統計学的に有意ではありませんでしたがMDSのリスクが上昇していました。同様に、喫煙指数が30以上のグループは「吸わない」グループと比べてMDSのリスクが2.2倍に上昇していました(図2)。さらに、統計学的に有意ではないものの喫煙指数が増えるほどMDSのリスクが上がる傾向が認められました。女性では喫煙者や罹患した人の人数が少なく、喫煙とMDS罹患率との関連ははっきりしませんでした。

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考えられるメカニズム

飲酒がMDSのリスクを下げるメカニズムとしては、アルコール自体による免疫力の向上や、ビールに含まれるキサントフモールによる抗白血病効果などが考えられます。喫煙がMDSのリスクを上げるメカニズムとして、タバコに含まれるベンゼンや放射性物質による発がんが挙げられます。いずれのメカニズムも十分に解明されているわけではなく、今後の研究の蓄積が必要です。

 

禁煙によりMDSの予防を、飲酒に関してはさらなる研究が必要

これまで、喫煙がMDSのリスクを上昇させることが海外の研究で示されていました。今回の研究結果から、これまでの結果が日本人にも当てはまり、喫煙がMDSリスクの上昇に関連していることが示唆されました。喫煙は急性骨髄性白血病や、多くの固形がん、循環器・呼吸器疾患などのリスクであることもわかっています。健康寿命の延伸ならびにMDSの予防のためにも禁煙を心がけましょう。

一方、MDSと飲酒に関しては、これまでの研究結果が一貫していません。今回の結果からは飲酒がMDSのリスクを下げることが示されましたが、これまでの研究の数も限られていることから、今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要です。

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