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肺がんの原因究明と新治療法開発のためのデータベース構築

肺がんの発症と予後に関する遺伝子、環境因子相互作用の研究

増加する肺癌の原因として挙げられるものは第1に喫煙であり、肺癌の60〜70%は喫煙が原因と考えられています。喫煙中に含まれる発癌物質は約200 程度といわれておりますが、その中でもベンツピレンをはじめとする芳香族炭化水素と4-(metyl-nitrosamino)-1-(3- pyridyl)-1-butanone(NNK)などのニトロサミンは、発癌との関連性が証明されており、芳香族炭化水素は扁平上皮癌と、ニトロサミンは腺癌との関連が示唆されております。これらの発癌物質はチトクロームP-450(cytochrome P-450: CYP)などの薬物代謝の第1相酵素により代謝活性化され、グルタチオンS-転移酵素(GST)、N-アセチル転移酵素(NAT)などの第2相酵素によって解毒代謝されます。この代謝的バランスが発癌感受性に重要な役割をはたしていると考えられておりますが、最近の研究では人の薬物代謝酵素には著しい個体差があることが明らかとなり、その個体差の要因の一つとして遺伝子レベルにおける変異や欠損などの遺伝子多型であることが分かっております。これまでも肺癌と喫煙中に含まれる発癌性物質の代謝に関与する薬物代謝酵素の遺伝子多型との関連性については数多くの論文が報告されており、いくつかの遺伝子多型が肺癌の発癌に関与していることが明らかとなってきましたが、遺伝子・環境因子の相互作用についてはあまり検討されておりません。現在我々は「肺癌データベース」に登録された肺癌患者約1500例の末梢血DNAを用い遺伝子多型(CYP1A1、CYP2A6、 CYP2E1、GSTM1,T1、NAT1,2など)を解析し、喫煙などの環境要因との相互作用を解析しております。「肺癌データベース」は症例のみのデータベースではありますが、Case-only studyの手法を使用することによって遺伝子・環境相互作用を検討することが可能です。また本研究で対象としている疾患は特定の遺伝子の関与の程度が明らかでない、いわゆる遺伝病でない疾患であり、遺伝子解析結果は集団の頻度として扱われ統計学的に解析されます。今回の研究により肺癌リスク要因のより明確な同定と、個人個人に適した合理的な予防指導の可能性が示されることが期待でき、また、その成果を応用することによって肺癌のハイリスクグループにより重点をおいた検査により早期発見・早期治療が可能となり、肺癌死亡率の減少へつながるものと期待されます。また、これらの遺伝子多型及び、遺伝子・環境相互作用と予後との関連を明らかにすることによって、将来のオーダーメイドの医療に貢献できる可能性も大きいと考えられます。

 

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