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国際共同プロジェクトへの参加

アジア人におけるBMIと死亡リスクの関連

―100万人以上のアジア人を対象にした国際プール分析―

 

BMIと疾病・死亡リスクとの関連に関する研究はこれまでほとんど欧米人集団を対象に行われてきた

これまで多くの研究からBMIと死亡リスクの強い関連が報告されています。例えば主として西ヨーロッパと北アメリカのコホートを対象にして行われた2009年のProspective Studies Collaboration (PSC, Whitlock G, et al. Lancet 2009; 373: 1083–96)では、22.5-25のBMIを底にして、それよりBMIが低くても高くても死亡率が上昇するというU字型のグラフで表されるBMI-死亡率の関連が報告されています。PSCのグラフは特に高いBMIによる死亡率上昇が低いBMIのそれを大幅に上回るものでした。こうした研究から、BMIに関しては、主として肥満の健康への悪影響に警鐘を鳴らすことにこれまで重点が置かれてきました。

しかし、こうした研究のほとんどは欧米人集団を対象としています。前出のPSCの研究対象には8%の日本人が含まれていますが、ほとんどは欧米人集団です。日本人の健康を考えるにあたっては、はたしてアジア人に関しても欧米人集団と同様の結果が当てはまるのかを検討する必要があります。この度、多目的コホート研究が参加した国際疫学研究プロジェクトの成果が専門誌に発表されました(N Engl J Med 2011年364巻719-729ページ)。このプロジェクトではアジア数カ国の19のコホート、100万人以上のアジア人を対象にBMIと死亡リスクの研究を行いました。

コホートの国別集計

 

地域により異なるBMI-死亡リスクの関係

対象をベースラインにおけるBMIによって15.0以下、15.1から17.5、17.6から20.0、…、32.6から35.0、35.0超といった具合に10個のグループに分け、ハザード比(相対的死亡リスク)を計算しました。ベースラインにおける年齢、性別、教育レベル、居住地の種別(都市部・農村)、婚姻状態など、死亡リスクに影響を及ぼす要因については、BMI-死亡リスクの関係に混入しないように統計的処理を行いました。

次の図は、東アジアとインド・バングラデシュの2大地域別に計算されたBMI-死亡リスクの関係をプロットしたものです。

 

BMI

BMI-死亡リスク

東アジアにおいては基本的にはU字型のBMI-死亡リスクが見られますが、その形状はPSCなどの結果と異なり、高BMIによる影響に比べて低BMIによる影響が際立ったものとなっています。またインド・バングラデシュにおいては低BMIによる死亡率上昇は見られますが、高BMIによる死亡率上昇は読み取ることができません。ただ、23-27程度の範囲がBMIの最適な水準となる点は、すくなくとも東アジア人に関するかぎり、欧米人集団を主な対象としたこれまでの研究の結果とおよそ一致しています。軽度肥満や肥満を判定するのに、人種によって異なるBMIの値を用いる必要はないということを、本研究は示唆しています。

 

低BMIの影響に関する考察

肥満が死亡リスクに影響するメカニズムについては医学的に多くの説明が可能です。他方、低BMIによって死亡リスクが上昇する理由はあまり明確ではありません。そうした意味では、高BMIの影響が強調される従来の研究結果は頷けるものですが、低BMIの影響が顕著であるという、アジア人に関するこの研究結果については考察が必要です。

研究の手法自体に問題があって、こうした結果がもたらされているという可能性も考える必要があります。痩せていることが原因となって健康を害したのではなく、まず劣悪な健康状態や生活環境・生活習慣がありその結果として痩せていて必然的に死亡リスクが上昇した、という因果関係の逆転を完全に排除できていないのかもしれません。もちろんこの研究ではこうした因果関係の逆転が起きてないかについて、さまざまな切り口で検証を行っています。例えば、ベースラインにおいて何種類かの疾病を持っている対象者や喫煙者を除外してみる、ベースライン後一定年数以内に死亡した対象者を除外してみる、などです。いずれの方法でも因果関係の逆転を明確に支持する結果は得られませんでした。しかしデータの制約等の理由から、依然として因果関係の逆転を排除しきれていない可能性はあります。

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