国際共同プロジェクトへの参加
アジア人におけるBMIと小腸がんの関連
―50万人以上のアジア人を対照にした国際統合分析―
アジアのコホートを対象としたBMIと小腸がんの関係の検証
がんの一次予防に資する分析疫学研究の大部分は欧米先進諸国から発せられており、それらの知見が日本以外の東アジア諸国のがん予防にどの程度有効かは、必ずしも明らかにされてはいません。そこで、東アジア諸国に特有なリスク特性を示す要因とがんをはじめとする生活習慣病との関連について、既存大規模コホートのメタ分析などの手法を用い量的評価を行っています。
この度、多目的コホート研究が参加した国際疫学研究プロジェクトの成果が専門誌に発表されました(Annals of Oncology 2012年 23巻(7) 1894-8ページ)。この研究プロジェクトでは、中国、日本、韓国、シンガポール、台湾の12集団(計527,726人)を対象にして、体型の指標であるBMI(体重(㎏)÷身長(m)2 )と小腸がんの関連を調べる横断研究が行われました。
研究方法の概要
この研究は、アジアコホート連合(ACC)の枠組みを利用して情報収集を進めました。本研究への包含条件として、5年以上の追跡期間、身長、体重またはBMIの情報が得られていること、研究開始時1万人以上の対象者が含まれていること、解析に必須な項目を最低限収集していることを暫定基準として定め、さらに小腸がん罹患データの利用可能な集団に限定しました。
国 | コホート数 | 対象者数 |
台湾 | 1 | 23,820 |
日本 | 5 | 251,409 |
韓国 | 2 | 34,553 |
中国 | 3 | 154,687 |
シンガポール | 1 | 63,257 |
合計 | 12 | 527,726 |
BMIレベルは「20.0未満」「20.1-22.5」「22.6-25.0」「25.1-27.5」「27.6以上」の5区分に分けられ、「22.6-25.0」の区分を基準として、各区分の小腸がん罹患率の相対リスク(ハザード比)とその95%信頼区間が計算されました。喫煙歴は「非喫煙」と「喫煙」に分けられ、「喫煙」のグループはさらに「過去喫煙」「現在喫煙」に分類され、「0.1-20.0 pack-year」「20.1-29.9 pack-year」「30.0+ pack-year」に分けられ、「非喫煙」の区分を基準としました。飲酒は「非飲酒」と「飲酒あり」に分けられ、「飲酒あり」のグループはさらに週当たりの平均エタノール摂取量で「0.1-100.0 g/week」「100.1-400.0 g/week」「400.1+ g/week」に分類し、「非飲酒」を基準としました。
BMIと小腸がん罹患との関連
下図はBMI、喫煙、飲酒カテゴリー別の小腸がん罹患率相対リスクをグラフにしたものです。
研究では、合計134人の小腸がん罹患(腺がん49、カルチノイド11、その他46、不明28)が認められました。BMIの増加とともに、小腸がんリスクの増加する傾向が見られました(BMI22.6-25.0と比較してBMI27.5以上の群で1.5倍(95%CI:0.76-2.96))。喫煙との関連は見られず、また非飲酒者と比較した週400グラム以上のエタノール摂取者で高いリスクが認められました(HR:1.57、95%CI:0.76-2.96)。
小腸がんはまれで、リスク要因に関する疫学研究が現在までほとんどありません。今後もエビデンスを蓄積していく必要がありますが、症例の数が少ないため、このような統合解析が重要であるといえます。