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日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)

体重過多と運動不足に起因するがんの割合

 過体重や肥満などの「体重過多」は、がんを含む多くの非感染性疾患に寄与していることが知られており、世界の人口の10分の1以上に影響を与えています。健康的な体重を維持し、がんのリスクを下げるためには、定期的な運動が重要です。

 今回の研究では、2015年における体重過多と運動不足に起因するがんの罹患と死亡の人口寄与割合(PAF:Population Attributable Fraction:ここでは、体重過多や運動不足が無かった場合、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):56-62.

研究方法の概要

 国際がん研究機関(IARC)および世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)の評価に基づき、体重過多(過体重および肥満)・運動不足に関連しリスクが増加するがんを対象とし、それぞれの人口寄与割合を推計しました。具体的には、体重過多では食道、胃噴門部、大腸、肝臓、胆のう、膵臓、乳房、子宮内膜、卵巣、前立腺、腎臓、運動不足では大腸、乳房、子宮内膜を対象としました。さらに、部位ごとの人口寄与割合を足し上げ、要因同士のオーバーラップの影響を補正し、がん全体における体重過多と運動不足の人口寄与割合を算出しました。

 日本では性別・年齢層別のBMIの平均は25 kg/m2未満であり、世界基準である25 kg/m2以上を体重過多(過体重および肥満)とすると、 人口寄与割合が0%となります。国際的な肥満の基準のアジア人集団への適用は賛否が分かれるため、世界保健機関(WHO)は23 kg/m2以上を過体重、25 kg/m2以上を肥満として推奨しています。この研究での人口寄与割合の推計にあたっては、BMI:23 kg/m2未満を適正体重と定義しました。

 運動については、定期的な運動を最適な量と定義しました。体重過多や運動不足によってがんのリスクが増加するまでの期間は明らかではないので、本研究ではその期間を10年と仮定しました。

 人口寄与割合の推計に必要な体重過多・身体活動レベルに関するデータは、推計年の10年前の2005年の国民健康・栄養調査を使用しました。2015年のがん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計を用いて推計し、がん死亡は人口動態統計を用いました。体重過多、運動不足に関連する相対リスクは、日本人集団のメタ解析もしくはプール解析から引用しました。日本人を対象とした使用可能なデータがない場合は、世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)のデータを使用しました。

体重過多では、がん死亡の人口寄与割合が最も高いのは食道腺がん

 体重過多の場合、がん罹患の人口寄与割合が最も高いがんは、男性では食道腺がん(5.5%)、女性では食道腺がん・胃噴門部がん・肝がん(いずれも1.2%)でした。がん死亡の人口寄与割合が最も高かったがんは、男女とも食道腺がん(男性5.0%、女性1.2%)でした。がん全体の罹患・死亡において、体重過多に起因するがんの割合はそれぞれ0.7%(男性1.0%、女性0.3%)でした。

 運動不足は、男性では大腸がん(6.8%)、女性では子宮内膜がん(14.7%)の罹患に最も寄与していました。がん死亡については、男女とも 人口寄与割合がやや上昇するものの同じ臓器で同様の傾向がみられました(男性:大腸がん 7.2%、女性:子宮内膜がん 16.9%)。がん全体では、罹患の 1.3%(男性 1.0%、女性 1.6%)、死亡の 0.8%(男性 0.9%、女性 0.8%)に運動不足が関与していることがわかりました。

表1. 日本における体重過多(BMI≧23 kg/㎡とした場合)に起因するがん罹患および死亡の人口寄与割合(%)(2015)

体重過多・身体活動_表1

表2. 日本における運動不足に起因するがん罹患および死亡の人口寄与割合(%)(2015)

体重過多・身体活動_表2

 

まとめ

 この研究では、日本人に合わせて、BMI:23 kg/m2以上を体重過多と定義しました。WHOの過体重の基準(25 kg/m2以上)で研究を行っている他国の研究とは異なる基準ですので、他の研究と単純に比較することはできません。 前述したように、BMI 25 kg/m2 以上を体重過多とした場合の人口寄与割合はがん罹患もがん死亡も0%となります。

 体重過多と運動不足は、がん罹患においてそれぞれ0.7%、1.3%、がん死亡においてはそれぞれ0.7%、0.8%に寄与していました。この研究での結果は、体重過多と運動不足に起因するがんを減少させるにあたって、有用な情報といえます。

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