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日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)

感染症に起因するがんの割合

 感染症は、いくつかの種類のがんと因果関係があるとされています。今回、2015年の日本におけるヘリコパクター・ピロリ菌 (H. pylori)、B型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルス(HBV/HCV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、EBウイルス(EBV)およびヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)によるがんの罹患および死亡の人口寄与割合(PAF: 感染症がなかったとすると、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値, population attributable fraction)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):63-69.

研究の概要

 本研究では、国際がん研究機関による発がん性評価に基づき、感染症に起因するがんといわれている胃、肝臓、子宮頸部、陰茎、外陰部、肛門、口腔、中咽頭、鼻咽頭のがん、胃非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、成人T細胞リンパ腫を対象とし人口寄与割合を算出、最終的にがん全体の罹患・死亡に占める人口寄与割合を推計しました。寄生虫やヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連のがんは日本では稀なため除外しました。

 それぞれの感染症有病率は、感染からがんに罹患するまでの期間を10年と仮定し、日本の研究の系統的レビューやメタ解析、大規模コホートなどの結果に基づいて推定しました。2015年のがん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計から推計し、2015年のがん死亡は、日本人口動態統計を使用しました。感染者のそれぞれのがんの相対リスクは、日本を含むアジア諸国でのメタ分析や日本のコホート研究(JPHC Study)などから引用しました。

感染に起因するがんは、がん全体の罹患の16.6%を占める

 結果、全体として、2015年の感染症によるがん全体の罹患および死亡の人口寄与割合は、それぞれ16.6%、17.7%であることが推計されました。

 人口寄与割合を男女で比べてみると、がん全体の罹患は男性18.1% 女性14.7%、死亡は男性18.5% 女性16.5%と、ともに女性より男性がわずかに高い結果でした。各がんの罹患の人口寄与割合は男性で4.3~100%の範囲にあり、HTLV-1(ATLで100%)が最も高く、次いでH. pylori(胃非噴門部がんで89%)、HPV(肛門がんで88%)およびEBV(鼻咽頭がんで80%)でした。女性では、4.3~100%の範囲であり、HPV(子宮頸がんで100%、肛門がんで88%)で最も高く、次いでH. pylori(胃非噴門部がんで90%)、EBV(鼻咽頭がんで80%)となりました。

 感染症別では、H. pyloriに起因する胃がんが、がん全体の罹患の約12.0%(男性14.3%、女性8.9%)を占め、最大となりました。

 感染症によるがん罹患数は、胃がんが最も多く、次いで肝がんが多い結果となりました。

 これらの結果は、H. pylori感染症とHBV/HCV感染症が日本における2大感染症であるという、これまでの推定と一致するものでした。感染者の除菌やワクチン接種による一次予防を中心とした対策が、感染症によるがんのリスクを下げることができると考えます。

 

表1. 日本における感染症によるがんの人口寄与割合(%)(2015)

感染症_表1

まとめ

 この研究には、限界がいくつかあげられます。第一に、EBVとHPVの人口寄与割合推計値については、主に欧米の集団を対象とした有病率やリスク因子を使用しています。日本人を対象としたデータが少ないことから、日本人における人口寄与割合としては、誤差がでている可能性があります。第二に、感染からがんに罹患するまでの期間を本研究では10年と仮定していることです。例えばH. pyloriに起因する胃がんの場合、H. pyloriによる胃炎から悪性腫瘍になるまでの期間は、10年以上と考えられています。よって本研究で採用した10年という期間は短すぎるかもしれませんが、期間を15年とした解析でも同様の結果が得られることは確認できています。第三に、死亡の原因として感染症が独立していると仮定していることです。例えば肝炎ウイルスのHBVとHCVのように、同時に感染したときに相互作用がある可能性は考慮されていません。しかしあるコホート研究では、HBVとHCVの共感染の割合は0.1%であり、我々の以前の研究ではHBVとHCVの共感染に対する人口寄与割合推定値は1.8%でした。よって本研究でHBVとHCVの共感染による相互作用を除外しても、深刻な誤差は生じないと考えることもできます。

 

表2. 日本におけるH. pyloriによるがんの人口寄与割合(%)(2015)

 感染症_表2

表3. 日本におけるHBV/HCVによるがんの人口寄与割合(%)(2015)

感染症_表3

表4. 日本におけるHPVによるがんの人口寄与割合(%)(2015)

感染症_表4 

表5. 日本におけるEBVによるがんの人口寄与割合(%)(2015)

感染症_table5

表6. 日本におけるHTLV-1によるがんの人口寄与割合(%)(2015)

感染症_table 6

 

 

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