日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)
大気汚染(PM2.5)に起因するがんの割合
PM2.5による大気汚染は主な環境健康問題のひとつで、肺がんのリスクとなることが知られています。大気汚染の種類には、ガス(一酸化炭素、二酸化硫黄、窒素酸化物、オゾンなど)や微小粒子状物質(PM)がありますが、PMのうち特に直径2.5 μm未満の粒子であるものがPM2.5と呼ばれています。
今回、2015年におけるPM2.5によるがん罹患および死亡の人口寄与割合(PAF: PM2.5への曝露が基準値以下の場合、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値, population attributable fraction)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):76-84.)
研究の概要
国際がん研究機関(IARC)は、粒子状物質を発がん性の十分な証拠があるグループ1に分類し、大気汚染と肺がんとの関連性を示しています。従って、今回の研究では肺がんを対象とし人口寄与割合を算出、最終的にがん全体の罹患・死亡に占める人口寄与割合を推計しました。
PM2.5濃度については、大気組成分析グループ(Atmospheric Composition Analysis Group)により推計されたPM2.5曝露量と日本統計局国勢調査の人口から、人口加重PM2.5濃度を算出し使用しました。2015年がん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計から推計し、2015年がん死亡は、日本人口動態統計を使用しました。リスクとなる年平均PM2.5濃度の最小値は、WHOのPM2.5曝露ガイドライン値(10 μg/m3)とし、基準値以上のPM2.5に曝露してから肺がんのリスクが増加するまでの期間は不明なため10年と仮定しました。大気汚染による肺がんの相対リスクは、大阪・愛知・宮城の三府県コホート研究から引用しました。
人口の約95.7%はWHOのガイドライン値を超えたPM2.5濃度に曝露
都市圏と西日本ではよりPM2.5濃度が高く、がん罹患の人口寄与割合も高い傾向に
結果、2005年の人口加重PM2.5濃度平均値は14.9 μg/m3であり、人口の約95.7%はWHOのガイドライン値を超えた量に曝露していることが分かりました。
地理的なばらつきがあり、東京都と神奈川県を含む関東地方と大阪府を含む関西地方、九州地方や中国地方を含む西日本が、他の地域よりPM2.5濃度が高い傾向にありました(図1)。一方、北海道や東北地方などの北日本では、PM2.5 濃度は低い結果でした。PM2.5濃度が高い地域は、人口密度が高く産業が盛んな地域、または中国大陸などの外国の大気汚染の影響を受けやすい地域となっています。
図1. 日本における都市レベルの人口加重PM2.5濃度平均値
PM2.5による肺がん罹患と死亡の人口寄与割合は、それぞれ9.7%と9.8%、PM2.5によるがん全体の罹患と死亡の人口寄与割合は、それぞれ1.2%と2.0%でした(表1)。
やはり地理的なばらつきがみられ、西日本の都市は他の都市に比べて人口寄与割合が高く、九州地方の熊本市は最も高い結果(男性26%、女性19%)が推計されました。東京都、神奈川県、大阪府の都市圏でも、他の都市に比べ人口寄与割合が高く、一方北海道や東北地方などの北日本では低い傾向にありました(図2, 3)。
表1.日本におけるPM 2.5によるがんの人口寄与割合(%)(2015)
図2. PM2.5による肺がん罹患の人口寄与割合(%)
図3. PM2.5による肺がん死亡の人口寄与割合(%)
まとめ
最後に、この研究の限界として累積PM2.5曝露量を求めていないことがあげられます。健康への影響は、PM2.5濃度だけでなく曝露時間にも依存しています。日本では、毎年200万人以上の人が都道府県を超えて移動しており、これはPM2.5曝露時間と累積曝露量のいずれにも影響を及ぼしますが、今回は考慮されていません。