日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)
高塩分食品摂取に起因するがんの割合
塩分摂取量は特に日本を含むアジア太平洋地域で高い傾向にあると言われています。また高塩分摂取による死亡者数をみると、食事性曝露の中で最も大きくなっています。
今回、2015年における高塩分食品摂取によるがん罹患および死亡の人口寄与割合(PAF: 高塩分食品摂取がなかった場合、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値, population attributable fraction)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):85-90.)
研究の概要
本研究では、日本人において高塩分食品摂取が多いほどリスクが増加するといわれている胃がんを対象とし人口寄与割合を算出、最終的にがん全体の罹患・死亡に占める人口寄与割合を推計しました。
高塩分食品の摂取については、2005年の日本国民健康・栄養調査から入手し、高塩分食品の最適摂取量は0 g/日、すなわち高塩分食品を摂取しない、としています。高塩分食品により胃がんのリスクが増加するまでの期間は不明なため、10年と仮定し検討しています。2015年のがん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計から推計し、2015年のがん死亡は、日本人口動態統計を使用しました。高塩分食品摂取者の胃がんの相対リスクは、世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)が実施したコホート研究(日本を含む)のメタ分析から引用しました。
高塩分食品摂取によるがんは、がん全体の罹患の2.4%を占める
結果、2015年の高塩分食品摂取に起因するがん全体の罹患と死亡の人口寄与割合は、それぞれ2.4%(22,000人)、2.2%(8,000人)でした。高塩分食品摂取を避けることで、年間少なくとも22,000人のがん罹患を防ぐことができたと考えられます。
表1. 高塩分食品摂取(>0 g)に起因するがんの人口寄与割合(%)(2015)
まとめ
この研究ではいくつか限界があげられます。まず、あるメタ分析において高塩分食品摂取が大腸がんのリスクを増加させる可能性があるとの結果がでていたものの、一つの報告であったため推計の対象に含めず、胃がんのみを対象としたことです。これにより人口寄与割合の過小評価を招いた可能性があります。次に、今回の推計ではWCRF 2018の報告書にある塩漬け野菜に関するメタ分析の相対リスクを用いましたが、その他一部の報告ではそれよりも相対リスクが高く報告されており、その点を加味すると人口寄与割合は今回の推計値よりも若干大きくなる可能性があります。最後に、さらに正確な人口寄与割合の推計には、ピロリ菌感染などのその他の因子を考慮する必要があります。