日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)
外因性ホルモン剤の使用に起因するがんの割合
国際がん研究機関(IARC)による発がん性評価において、経口避妊薬(OC)の使用は、乳がん、子宮頸がん、肝がんに対して発がん性があるとされています。また、ホルモン補充療法(HRT)も乳がんと関連しているとされています。
日本では、これらの外因性ホルモン剤の使用は、欧米ほど一般的ではありません。この研究では、2015年における外因性ホルモン剤の使用に起因するがんの罹患と死亡の人口寄与割合(PAF:Population Attributable Fraction, ここでは、外因性ホルモン剤の使用が無かった場合、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):97-101.)
研究方法の概要
この研究では、相対リスクに関する利用可能なデータを用いて、国際がん研究機関(IARC)で、経口避妊薬とホルモン補充療法に関連があるとされる部位である、乳房、子宮内膜、卵巣の各がんを対象としました。がんの人口寄与割合は、もし全員が経口避妊薬およびホルモン補充療法を使用しなければ予防可能だった可能性のあるがんの割合と定義しました。
2011年に開始された日本の次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)から得られた経口避妊薬(OC)およびホルモン補充療法(HRT)により外因性ホルモン剤を使用している患者数を使用しました。2015年のがん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計によって得た2013年のがん罹患の年間推計値を用いて推計し、がん死亡は、人口動態統計を用いました。相対リスクの推計値は、日本人女性の研究は限られているため、国際的なメタ解析の結果を使用しました。
外因性ホルモン剤に起因するがんは、がん全体の罹患の0.02%を占める
日本人女性における経口避妊薬使用の人口寄与割合は、がん罹患0.02%、がん死亡0.003%でした。ホルモン補充療法の人口寄与割合は、がん罹患0.3%、がん死亡は0.2%でした。2015年における女性の外因性ホルモン剤(OCとHRT)使用の全体では、がん罹患0.4%、がん死亡0.2%、男女合わせた場合の人口寄与割合は、がん罹患0.2%、がん死亡0.1%と推計されました。
表. 日本における外因性ホルモン剤に起因するがん罹患および死亡の人口寄与割合(%)(2015)
この研究の限界
日本人における外因性ホルモン剤使用率に関する公表データは限られています。この研究では、2011-2016年に実施されたJPHC-NEXTから最新の使用率データを入手し、日本人集団における外因性ホルモン剤使用の最新の曝露レベルを反映させました。今後、より正確なリスク値が利用できれば、日本人女性における外因性ホルモン剤の使用に起因するがんへの影響をより深く知ることができるでしょう。
まとめ
今回の研究により、日本人女性のがん罹患の0.4%、がん死亡の0.2%というわずかな割合が外因性ホルモン剤(OCとHRT)の使用に起因していることが明らかになりました。外因性ホルモンの使用率が日本では比較的低いことが、日本人女性における外因性ホルモン剤に起因する欧米諸国と比べてがんの割合が低いことの理由と考えられます。