日本人におけるがんの原因の寄与度推計(JAPAN PAF プロジェクト)
授乳に起因するがんの割合
世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)による継続的評価(CUP:The Continuous Update Project)では、授乳と乳がんのリスク低下の関連は、ほぼ確実とされています。一方で、授乳と女性生殖器のがんのリスクとの関連は不明です。
この研究では、2015年における授乳歴のないことによるがんの罹患と死亡の人口寄与割合(PAF:Population Attributable Fraction, ここでは、授乳経験があった場合、がんの罹患や死亡が何%防げたかを表す数値)を推計しました。(GHM Open. 2021; 1(2):43-50. )
研究方法の概要
授乳に関連するがんの人口寄与割合は、もし全員が授乳をしたことがあれば予防可能だった可能性のあるがんの割合と定義しました。この研究では、CUPで検討されたがん(乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん)を対象とし、それぞれの人口寄与割合を推計しました。
授乳歴の無いことによって、がんのリスクが増加するまでの潜伏期間は不明であるため、本研究では過去の母乳育児歴の有無でリスク因子を判断しました。過去の母乳育児歴について、厚生労働省の21 世紀出生児縦断調査 (LSB21)および次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)のデータを使用しました。2015年のがん罹患は、全国がん罹患モニタリング集計によって得た2013年のがん罹患の年間推計値を用いて推計し、がん死亡は、人口動態統計を用いました。乳がんと卵巣がんの相対リスクは、出産経験のある日本人対象のコホート研究に基づいています。子宮内膜がんの相対リスクは、メタ解析から引用しました。
授乳に起因するがん全体の罹患の人口寄与割合は0.3%
授乳歴のないことに起因する本研究で対象となったがんは、乳がんと子宮内膜がんのみで、がん罹患と死亡の人口寄与割合は、ともに約1%でした。全体では、2015年の1,231件のがん罹患と202件のがん死亡が、過去の授乳歴がないことに起因し、人口寄与割合はそれぞれ0.3%、0.1%でした。
表. 日本における授乳に起因するがん罹患および死亡の人口寄与割合(%)(2015)
まとめ
今回の研究により、日本人女性のがん罹患の0.3%、がん死亡の0.1%が授乳歴のないことに起因することが明らかとなりました。他国の研究と比較して日本での人口寄与割合が低い結果となったのは、日本における母乳育児率が高いことが関係しているかもしれません。