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サンパウロ日系人研究

サンパウロ在住日系人の疾病構造

死亡と死因

目的

私達が調査を始めるまでは、サンパウロの日系人に関する医学面での組織的な調査は行われていませんでした。彼らの健康的側面についての信頼できる資料が少なく、まずサンパウロの日系人はどの様な病気が原因で亡くなっているのかということを明らかにするために死亡統計を調べました。

方法

1980 年を中心に前後各1年、計3年間のサンパウロ市に住所を有する死亡票の中から、出生地が日本である例と両親の名前から日系と推定される例を収集しました。そのうち一世 2,346名については、出世地が調べられている国勢調査において人口が把握出来たので、死亡統計を作成しました。

研究成果

発表論文1,3) (観察された知見は普通の白文字で記されています。太字で記されているのは得られた知見からの考察です。)

男女共にいずれの年齢においてもサンパウロ市の死亡率が高いのに比べて、一世のそれは、世界最長寿国日本のものに匹敵する低さであり、多民族国家ブラジルのなかでも日系一世は極めて長寿の集団を形成している実態が明らかになりました。主要な死因は、日本と同様に、がん・脳卒中・心臓病(特に、虚血性心疾患)のいわゆる3大成人病により占められています。しかし、日本およびサンパウロ市一般人口の死因別死亡率と比較すると、一世のがんと脳血管疾患(脳卒中)死亡率は日本・サンパウロ市のいずれの死亡率よりも低値ですが、虚血性心疾患については日本の2倍以上の高値を示し、サンパウロ市の死亡率へのシフトが観察されました。また、慢性肝疾患や自殺による死亡率は日本より有意に低い一方、糖尿病、交通事故、他殺による死亡は有意に高いという結果が得られました。肉食を中心とした食生活への移行が、虚血性心疾患を増加させる一方、脳血管疾患(特に脳出血)を抑えていることが推察されます。また、交通事故や他殺に起因する死亡の増加に関しては、ブラジル・サンパウロ市における交通事情や治安の悪さなどの社会的要因によってもたらされた結果であることが推察出来ます。また、自殺死亡の低さについては、一言で説明することは出来ませんが、一世の年齢を考えると病苦などを理由にする高齢者の自殺が低いことを意味し、ブラジルの楽天的な気質に加え、病気を抱えた老人に対する家族や親戚などのサポート体制が、特に、日系人社会のなかでは強いのではないかという個人的な見解を持っています。


がん死亡と罹患

目的

がん患者のすべてが亡くなるわけではないのでがんの実体を知るにはがんの罹患(発生)状況も併せて知る必要があります。そこで死亡統計に加えてサンパウロの日系人はどのような種類のがんにかかっているかをサンパウロのがん登録のデータを分析しました。

方法

がん罹患状況を把握するために、サンパウロ市のがん登録の1969年から1978年の10年間の資料を用いて、サンパウロ日系人の罹患率の解析を行いました。

研究成果

発表論文 3,4) (観察された知見は普通の白文字で記されています。太字で記されているのは得られた知見からの考察です。)

一世において、日本との比較で死亡・罹患共に明かな増加傾向を示すのは前立腺がんで、サンパウロ市の高いレベルに近づいています。乳房のがんに関しても死亡では変化は認められませんでしたが、罹患率は増加しています。胃がんについては、死亡・罹患共に男性で約85%、女性で約80%への減少を認めるものの、その傾向は顕著ではありません。また、男性では、二世においても、胃がんが死亡・罹患のいずれの統計でも最頻の部位です(女性では、乳がん)。 主ながんの年齢調整罹患率(年齢構成をある一定のものに仮定して求めた計算値で、年齢構成の異なる集団間の比較に用いる指標)について、日本に比べて、サンパウロおよびハワイのいずれの日系人も、胃がんが減少する一方、前立腺と乳房のがんが増加していますが、その程度はハワイの日系人の方が大きくありました。また、ハワイの日系人の結腸がんは、移住先のハワイのものと同程度に高くなっていますが、サンパウロの日系人では明かな増加が認められていません。 サンパウロ日系人のがんの様相は、ハワイへの移民と異なり日本在住者のパタンに近く、より日本的なライフスタイルを維持していることが推定されます。


死亡調査Ⅱ

研究成果一覧

 

1  題名:サンパウロにおける日系人のがん死亡率(1999-2001)発表論文5

要約:サンパウロ州在住日系人の近年の死因を分析するために、死亡票の収集と手作業による日系人の抽出作業を行い、1999-2001年の3年間の死因統計を作成し、日本人やブラジル人と比較した。標準化死亡比は、日系人では胃がんおよび大腸がんについては日本人との間では差が見られず、ブラジル人で低かった。ブラジル人および日系ブラジル人では、日本人に比べ、肝がん、胆がん、肺がんについて低く、前立腺がん、子宮頸がん、脳神経系の腫瘍については高かった。また、日系人とブラジル人では乳がんと子宮がんの標準化割合死亡比が高かった。

題名:サンパウロにおける日系人のがん死亡率の長期的傾向(1979-2001)発表論文6

要約:1979年から2001年までのサンパウロ在住日系1世のがん死亡率の傾向を調べ、日本人やサンパウロ在住ブラジル人と比較した。どの集団でも、胃がんの減少と大腸・乳房・前立腺のがんの増加が見られた。その傾向は、日系1世の胃がん・結腸がんは日本人と同様であったが、乳がんと前立腺がんについては、日本人よりは多くブラジル人よりは少ない中間であった。

no 記事 外部リンク
6 Iwasaki M, Mameri CP, Hamada GS, Tsugane S. Secular trends in cancer mortality among Japanese immigrants in the state of S?o Paulo, Brazil, 1979-2001. Eur J Cancer Prev. 2008; 17(1): 1-8.
5 Iwasaki M, Mameri CP, Hamada GS, Tsugane S. Cancer mortality among Japanese immigrants and their descendants in the state of S?o Paulo, Brazil, 1999-2001. Jpn J Clin Oncol. 2004; 34(11): 673-680.
4 de Souza JM, Gotlieb SL, da Costa Junior ML, Laurenti R, Mirra AP, Tsugane S, Watanabe S. Proportional cancer incidence according to selected sites--comparison between residents in the city of S. Paulo, Brazil: Japanese and Brazilian/Portuguese descent. Rev Saude Publica. 1991; 25(3): 188-192.
3 Tsugane S, de Souza JM, Costa ML, Jr., Mirra AP, Gotlieb SL, Laurenti R, Watanabe S. Cancer incidence rates among Japanese immigrants in the city of S?o Paulo, Brazil, 1969-78. Cancer Causes Control. 1990; 1(2): 189-193.
2 Tsugane S, Gotlieb SL, Laurenti R, de Souza JM, Watanabe S. Cancer mortality among Japanese residents of the city of S?o Paulo, Brazil. Int J Cancer. 1990; 45(3): 436-439.
1 Tsugane S, Gotlieb SL, Laurenti R, Souza JM, Watanabe S. Mortality and cause of death among first-generation Japanese in S?o Paulo, Brazil. Int J Epidemiol. 1989; 18(3): 647-651.
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