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年報

平成11年度

臨床疫学研究部では、ヒト集団を対象に疫学・生物統計学の手法を用いて、

  1. 発がんにおける食品・栄養素の関連
  2. 発がんにおける環境要因と遺伝的感受性の関連
  3. がんの予防法に関する研究

を行っている

具体的には、10万人規模の地域住民を対象に、長期追跡調査により食品・栄養素摂取など生活習慣とがん罹患との関連を検証するコホート研究、ブラジル在住の日系移民などを対象に遺伝子指標を取り入れた症例対照研究、胃がん死亡率が高い地域における効果的な予防法に関する介入研究などのプロジェクトを進行させた。

コホート研究においては、5.5万人の10年間の追跡を終了し、2,500名の死亡と2,500のがん罹患を確認した。5年後調査の集計を行ったところ、42,188名 (77%) からアンケートの回答を、15,475名 (28%) から血液の提供を受けた。そして、ベースライン調査アンケートにおける飲酒量と7年間の追跡での死亡・がん死亡との関連を検討したところ、J型カーブの関連を認めた(非飲酒者と比較して少量飲酒者のリスクは低かったが、飲酒者の中では、飲酒量の増加と共にリスク、特に、がん死亡リスクが高くなった)。 また、コホート対象地域を含めた地域間で、がん年齢調整死亡率と無作為抽出した住民の血液中栄養素濃度平均値との関連を検討したところ、胃がんは抗酸化ビタミン・カロテノイド濃度と、前立腺がんは血清脂肪酸濃度とそれぞれ負の相関を示した。日本の5地域、ブラジル・サンパウロ市、ぺルー・リマ市にそれぞれ在住する中年期男性のヘリコバクター・ピロリ菌の抗Ig G抗体の保有率に差は認められなかったが、萎縮性胃炎保有率や胃がん発症率には大きな違いがあり、これら疾病のリスクが、ヘリコバクター感染のみでは説明出来ないことを示唆した。また、DNAの酸化的損傷に対する修復酵素であるOGG1遺伝子の変異型多型が、喫煙関連の肺がんリスクを高める事を示した。

胃がん予防研究については、胃がん高率地域の慢性萎縮性胃炎保有者に対する、ビタミン C投与による影響を評価するための無作為比較試験の5年目を経過すると共に、同一地域の住民を対象として、胃がんの食事関連危険因子の軽減を目指した効果的な食事指導システムの開発及びその評価に関する介入研究の2年目を約500名の対象に対し行った。
さらに、臨床研究や基礎研究などに対する疫学・生物統計学的支援を行った。

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