年報
平成15年度
臨床疫学研究部では、人間集団を対象に疫学・生物統計学の手法を用いて、(1)発がんにおける食品・栄養素の関連、(2)発がんにおける環境要因と遺伝的感受性の関連、(3)がんの予防法に関する研究を行っている。
1.多目的コホートによるがん・循環器疾患の疫学研究(JPHC Study)
生活習慣とがんなど成人病発症との関連を検討する目的で、全国11保健所管内14万人の地域住民を対象に、1990年より長期追跡調査を多施設共同研究として行っている。すでに5年後および10年後調査を実施、引き続き20年後まで追跡予定である。平成15年度には、累積で9000人の死亡、8000例のがん罹患が確認された。ベースライン調査と5年後調査で使用された食事摂取頻度調査(FFQ)について方法と結果の詳細を刊行した。主要な栄養素について、 28日間または14日間の食事記録、各種バイオマーカーからFFQの妥当性が評価された。ビタミンCについては、果物と野菜が豊富な季節の摂取量を調査すれば調査時期による誤差が大幅に解消されることが明らかになった。血液サンプルと検診データはコホート内の基本健診参加者より採取されたが、研究結果を一般にあてはめるために考慮すべき選択バイアスの存在についての検討を行った。さらに、ベースライン調査で確認された生活習慣とその後のがんや成人病罹患の関係についても検討を行った。まず味噌汁とイソフラボン摂取量が多いグループほど乳がんリスクが減ることが示された。また、日本人男性の大腸がん予防には、禁煙と節酒が重要であることが示された。さらに、ヨーロッパの白人の間でコーヒー摂取量が多い群で2型糖尿病リスクが低かったという報告を受け、日本人でも同様の結果がみられることを報告した。
2.胃がん高危険度群に対する有効な予防方法の開発研究
ビタミンC投与による胃粘膜萎縮改善効果の評価(9年目/10年)では、5年間のビタミンC補給により、血中ビタミンC濃度上昇、胃粘膜萎縮が改善する傾向が確認された。介入は食事からのビタミンC摂取量には影響しなかった。また、食事関連危険因子の軽減を目指した効果的な食事指導システムの開発・評価では、食事指導介入による食塩摂取量減少とカロテンおよびビタミンC摂取量増加効果が確認された。
3.ブラジル日系移民を対象としたがんの疫学研究
サンパウロ市在住の日系移民と非日系住民を対象に行われた2つの症例対照研究から、ヘリコバクター・ピロリの毒性関連蛋白CagA抗体を調べ、人種に関係なく非噴門部の胃がんのリスクと関連していることが示された。
4.内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する疫学研究
多環芳香族炭化水素(PHA)高曝露グループである鉄工所のコークス炉職人を対象にした横断面調査では、CYP1A1とNAT2の遺伝子多型が白血球中のDNA付加体量に関わることがわかったが、PHA曝露が酸化によるDNA損傷を惹起するか否かはわからなかった。