年報
平成18年度
予防研究部では、地域住民、検診受診者、病院の患者さんなど人間集団を対象に、疫学研究の手法を用いて、
- 発がん要因の究明(がん予防のために必要な科学的根拠を作る)
- がん予防法の開発(科学的根拠に基づいて具体的かつ有効ながん予防法を提示する)
を目的とした研究を行っている。
多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(JPHC Study)
生活習慣とがんなど成人病発症との関連を検討する目的で、全国11保健所管内14万人の地域住民を対象に、長期追跡調査(H2年開始)を多施設共同研究として行っている。
H18 年10月までに、累積で13,045名の死亡、11,230名のがん罹患、3,943名の脳卒中罹患、1,190名の急性死を含む心筋梗塞罹患を確認した。引き続き、食物摂取頻度調査の妥当性など、研究の質を確保するための基礎データを示し、ベースライン調査などで確認された生活習慣とその後のがんや成人病罹患の関係についても検討を行った。
糖尿病既往がある群の何らかのがんになる危険性は、ない群に比べ男性で1.3倍、女性で1.2倍になった。肺がん家族歴がある群の肺がんリスクは、ない群の約2倍高くなった。胃がん検診受診ありの群の胃がんによる死亡率が、なしの群の0.52倍に低下した。肥満指数や身長など、体型による前立腺がんリスクの差は見られなかった。便通の頻度と便の状態や、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの関連はみられなかったが、女性では食物繊維15分位最少摂取量群のみ5分位最多摂取量群の2.3倍高くなった。
保存血液を用いた多目的コホート内症例対照研究により、高感度CRP値はある程度大腸がんリスクを予測することが示された。またヘリコパクターピロリ抗体陽性群の胃がんリスクは、陰性群の5.1倍であり、さらにCagA (+)または萎縮性胃炎(+)との組合せで10倍以上高くなった。魚およびその成分であるn‐3脂肪酸は、全虚血性心疾患、とくに心筋梗塞に対して予防的であった。
喫煙群の虚血性心疾患リスクは男女ともに非喫煙群の約3倍高く、心筋梗塞に限ると男性で約4倍高くなった。血清総コレステロール値は心筋梗塞リスクと関連していたが、卵の摂取量はどちらとも関連がみられなかった。健診受診者集団という特定集団の相対リスクは一般化できるのかを検討した結果、慎重な検討が必要と結論づけられた。
習慣的な大量飲酒群あるいは全く飲まない群の自殺リスクは、ともに時々飲む群の2.3倍高くなった。栄養成分表の改定が、食物摂取頻度調査票から算出した各栄養素の摂取量の妥当性にどのように影響するのかを検討した。
生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価
日本人における全がん、主要ながんについて、喫煙、飲酒、野菜・果物、肥満などその他の要因との関連について疫学研究の評価を行い、必要に応じてメタ・アナリシスを進めた。
喫煙と大腸がん、肺がん、乳がん、肝がんの関係、および飲酒と大腸がんの関係を総合評価し報告した。
一般的な日本人のがんリスク要因の認識についての調査結果を解析した。また、胃がん死亡率の高い地域に居住する住民を対象に、胃がんの効果的な予防方法を開発する目的で、2つの無作為化比較試験(ビタミンC補給による胃粘膜萎縮改善効果の評価、食事関連危険因子の軽減を目指した効果的な食事指導システムの開発・評価)をH7年から継続して行っている。
ビタミンC高用量投与による風邪の予防効果が示された。また、食事指導による食事変容の継続と血圧の改善効果が示された。
ブラジル日系移民を対象としたがんの疫学研究
サンパウロ日系人、ブラジル人、日本人の3つの乳がんの症例対照セットを解析するプロジェクトを進行中である。食事と大腸腺腫のパイロット研究が終了、本調査の準備中である。
その他
不妊症治療中の女性を対象とした断面研究で、魚をよく食べる人ほど体内に有機塩素系化合物がより多く蓄積する可能性が示された。酸化ストレス等によるヒトDNAの損傷を検出する新しい方法を開発するために、アダクトーム法の応用について考察した。
予・検センター検診受診者を対象とした研究で、血中の中性脂肪の値が高い人ほど、特に喫煙者で、大腸腺腫の発生率が高く数が多かった。
中国での高濃度のフタル酸エステルへの職業曝露群で、血清中のテストステロン濃度が低かった。