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要旨

内分泌かく乱化学物質（ダイオキシンを除く）と、子宮体がんに関する疫学研究の現状について、文献調査を行った。国立医学図書館の医学文献データベースPubMedを利用して選択した文献は2000年12月31日までに、人口ベースの報告されていた。2001年1月1日以降は報告が１件もなかった。二つの症例対照研究ではDDTやPCB等の血清レベルによる明らかなリスク上昇を認めなかった。現状では、疫学的知見はきわめて乏しく、これら化学物質と子宮体がんとの因果関係を適切に判断することは困難と思われた。子宮体がんに関するコホート内症例対照研究の必要性が示唆された。

研究目的

有機塩素系化合物等の化学物質の一部には、エストロゲン様作用があると考えられている。そのため、これらの物質が、女性の内分泌関連がん（乳がん・子宮体がん）の発生に関与する可能性が指摘されてきた。これら化学物質と女性のがんについてのこれまでの疫学研究は、乳がんに関する報告が大半である。しかし、1995年の総説の中でAdamiら（1995）は、エストロゲンに対する感受性は乳房よりも子宮内膜の方が高いので、内分泌かく乱化学物質によるヒト発がんリスクを評価するためには、乳がんではなく子宮体がんに関する研究を行うことの重要性を指摘している。

今回われわれは、有機塩素系化合物などの化学物質（ダイオキシンを除く）と、子宮体がんに関する疫学研究の現状を把握する目的で、文献レビューを行った。

研究方法

米国立医学図書館の医学文献データベースPubMed（http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez）を用いて、"endometrial cancer AND ( Insecticides OR Pesticides OR Chlorinated Hydrocarbons OR PCBs OR Bisphenol OR Phenol OR Phthalate OR Styrene OR Furan OR Organotin OR Diethylstilbestrol OR Ethinyl Estradioldioxins)のキーワードで文献を検索した。候補文献の中から、ヒト集団を対象とする疫学研究の原著論文を同定した。さらに、これらの原著論文に言及されている論文を選択した。

研究結果

子宮体がんと有機塩素系化合物等との関連を検討した人口ベースの症例対照研究が、二つ報告されていた（Stugeon, 1998, Weiderpass, 2000）（表１）。1998年のSturgeonらによる報告は、米国５地域の子宮体がん症例90例と、住民対照90例を対象に行われた。血清レベルの上昇につれてオッズ比が有意に高くなる化合物はなかった。2000年のWeiderpassらによる報告は、症例154例と、住民対照205例を用いて、スェーデンで行われた。血清レベルの上昇につれてオッズ比が有意に高くなる化合物はなかった。二つの研究では、化合物を、エストロゲン作用を持つグループ、抗エストロゲン作用を持つグループなどにまとめて分析を行ったが、いずれも有意なリスク上昇を認めなかった。

日本人を対象に、内分泌かく乱化学物質と子宮体がんとの関連を検討した疫学研究はなかった。

考察

内分泌かく乱化学物質と、子宮体がんについての疫学研究をレビューしたところ、1998年以降に報告された、少数の研究が存在するのみであることが明らかになった。二つの症例対照研究は、DDTやPCB等の血清レベルによる明らかなリスク上昇を認めない点で共通していた。より方法論的に信頼性の高い、コホート内症例対照研究の報告はなかった。セベソ住民のコホート研究では、子宮頚部、子宮体部、胎盤を合わせた子宮がん死亡の観察数がわずか2例に過ぎず、解釈は困難である。

このように、内分泌かく乱化学物質と子宮体がんとの関連についての疫学研究の知見は、現状ではきわめて少なく、両者の因果関係を適切に評価するには不十分である。今後は、子宮体がんに関するコホート内症例対照研究を行う必要がある。

結論

内分泌かく乱化学物質と、子宮体がんについての疫学研究をレビューしたところ、現時点での実証的知見はきわめて乏しく、両者の因果関係を適切に評価することは困難であった。より大規模で、信頼性の高い研究デザインを用いた研究の必要性が示唆された。

参考文献

Adami HO, Lipworth L, Titus-Ernstoff L, et al. Organochlorine compounds and estrogen-related cancers in women. Cancer Causes Control 1995;6:551-6.

Stugeon SR, Brock JW, Potishman N, Needham LL, Rothman N, Brinton LA, Hoover RN. Serum concentrations of organochlorine compounds and endometrial cancer risk (United States). Cancer Causes Control 1998;9:417-24.

Weiderpass E, Adami HO, Baron JA, Wicklund-Glynn A, Aune M, Atuma S, Persson I. Organochlorines and endometrial cancer risk. Cancer Epidemiol Biomarker Prev 2000;9:487-93.

Bertazzi PA, Consonni D, Bachetti S, et al. Health effects of dioxin exposure: a 20-year mortality study.Am J Epidemiol. 2001;153:1031-44.