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歯の本数と奥歯のかみ合わせに関する自己評価の妥当性について
-歯の本数と奥歯のかみ合わせに関する自己評価の妥当性について-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。次世代多目的コホート研究対象地域のうち、平成25~28年(2013~16年)に、秋田県横手地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の約3万人のうち、2,533人が歯科研究に参加しました。この中で、アンケートにご回答いただき、歯科健診を行った2,356人(男性778人、女性1,578人)の結果に基づいて、歯の本数と奥歯のかみ合わせに関する自己評価の妥当性(自己評価の確からしさ)について歯科健診による臨床所見と比較して検討し、専門誌に論文発表しましたので紹介します。(J Oral Rehabil 2018年2月 ウェブ先行公開)
疫学研究では、地域住民の歯の健康状態を把握する方法の一つとして、自己評価式のアンケート調査を用いて、歯の本数、う蝕の状態、修復物または補綴物、歯周病、顎関節症および咀嚼状態などを推測しています。しかしながら、歯の本数や奥歯のかみ合わせに関する自己評価の妥当性は十分に検討されていません。したがって、今回は、歯の本数と奥歯のかみ合わせに関する自己評価の妥当性を検討しました。
アンケート調査の中で、歯の本数は「自分の歯は何本ありますか?」という質問に本数で回答していただきました。奥歯のかみ合わせは「自分の歯や入れ歯で、左右の奥歯をかみしめることができますか?」という質問に、「両方できる」、「片方だけできる」、「どちらもできない」の3つの中から1つを回答していただきました。この回答を、歯科医による歯科健診を行って、実際の歯の本数、奥歯の本数、3種類の奥歯のかみ合わせの指標(機能歯ユニット*;n-FTU、nif-FTU、total-FTU)と比較しました。
*<参考> 機能歯ユニット(FTU) 奥歯のかみ合わせの指標で、下図の青色部分には、かみ合わせの状態に応じて2点(かみ合わせ有り)もしくは0点(かみ合わせ無し)が割り当てられ、黄色部分には1点(かみ合わせ有り)もしくは0点(かみ合わせ無し)が割り当てられる。左右4か所の点数を合計し(0~12点)、値が大きいほど奥歯のかみ合わせの状態が良好であることを示す。
n-FTU:自分の歯だけによる機能歯ユニット
nif-FTU:自分の歯、ブリッジ、インプラントによる機能歯ユニット
total-FTU:入れ歯を含めたすべての歯による機能歯ユニット
歯の本数の自己評価の妥当性
対象者全員の歯科健診による歯の平均本数は23.7本、アンケート調査の自己申告による歯の平均本数は23.8本でした。男性ではそれぞれ23.9本と23.9本、女性では23.6本と23.7本と、どれもほぼ同じ値を示しました。また、歯科健診による歯の本数と、アンケート調査の自己評価による歯の本数との相関係数(この値が1に近いほど自己評価による歯の本数が確からしいことを示す)は、男性で0.73以上、女性で0.79以上と、どちらとも高い値でした(図1)。
図1 歯科健診と自己評価による歯の本数
奥歯のかみ合わせの自己評価の妥当性
アンケート調査による奥歯のかみ合わせの質問で「両方できる」と答えた人は87.6%、「片方だけできる」と答えた人は9.0%、「どちらもできない」と答えた人は3.4%でした。奥歯のかみ合わせの自己評価の結果と、実際の歯の本数、奥歯の本数、3種類のFTUとの関連を調べたところ、奥歯のかみ合わせの自己評価が良い人ほど、実際の歯の本数、奥歯の本数、3種類のFTUいずれも値が高くなる傾向がみられました(図2、3)。
図2 奥歯のかみ合わせの自己評価と歯の本数
図3 奥歯のかみ合わせの自己評価と3種類の機能歯ユニット(FTU)
この研究について
アンケート調査による歯の本数および奥歯のかみ合わせに関する自己評価について検討したところ、いずれも歯科健診による結果を反映しており、妥当性が高いことが分かりました。通常、歯やお口の状態を把握する際には、歯科健診を行います。しかし、多くの人を対象として調査を行う場合、すべての人に対して歯科健診を実施することは困難です。歯科健診ができない状況においても、本研究で使用したアンケートによる歯の本数、奥歯のかみ合わせの調査項目を用いれば、簡便にかつ信頼できる結果が得られることが分かりました。
この結果は今後、次世代多目的コホート研究で、生活習慣と歯の本数との関連を検討したり、歯の本数とがんなどの生活習慣との関連を検討したりする際の重要な基礎資料となります。