科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
飲酒と死亡リスク
日本のコホート研究のプール解析
※2024年12月5日 論文の一部を誤った日本語で翻訳していたことが判明したため、記述を一部修正しました。今後同様の不備がないよう努めてまいります。
日本人の飲酒と死亡リスク
「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんなどのリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。
(研究班ホームページ:https://epi.ncc.go.jp/can_prev/)
これまでに、飲酒によりがん全体および肝がん、大腸がん、食道がんのリスクが高くなることは確実であるという判定を報告しました。一方では適量の飲酒は循環器疾患を予防するという知見があります。そこで、健康の総合的な指標となる死亡との関連について、国内の6つのコホートのデータを併せたプール解析による定量評価を行い、飲酒量別の影響の大きさを推定し、その結果を専門誌に報告しました (J Epidemiol Community Health 2010年WEB先行公開)。
男性では1日当たりエタノール換算で46g、女性では23gまではリスク低く
各コホートの合計約31万人のデータを用いて、アルコール摂取状況によって男性は7つのグループ、女性は4つのグループに分けました。平均で6.9年から14.6年の追跡期間中に、男性22,260人、女性13,541人の死亡が確認されました。まったく飲まないグループを基準にして、他のグループの死亡リスクを比べました。
男性では、グラフのように、飲酒が増えるにつれていったん死亡のリスクが下がり、さらに増えるとリスクが上がるというJ型やU型の関連が見られました。全死亡についてはエタノール換算で1日当たり69g、がん死亡では46g、心疾患死亡では69g、脳血管疾患死亡では46gを超えない量の飲酒で、死亡リスクが飲まない人よりも低くなっていました。女性でも全死亡と心疾患死亡でJ型の関連が見られ、全死亡については1日当たりエタノール換算で23gを超えない飲酒で死亡リスクが飲まない人と比べて低くなっていました。
男性の死亡の5%が、46g/日以上のアルコール摂取のために
男性の死亡で、1日当たり46g以上の飲酒者で過剰に発生した部分を算出すると、全体の5%を占めることが分かりました。全死亡の5%、がん死亡の3%、心疾患死亡の2%、脳血管疾患死亡の9%は、1日当たり46g以上の飲酒がなければ予防可能であったと推計されます。女性では、もともと大量飲酒者が少ない集団であることから、23g以上の飲酒で過剰に発生した死亡は1%未満にすぎませんでした。ただし、今回の結果からは、これまでの研究結果と同様に、女性は男性よりも飲酒の影響を受けやすいことが示されました。総合的に考えると、日本人で死亡リスクが低くなる飲酒量は、男性では1日当たり46gまで、女性では23gまででした。
この研究では、コホートごとに、居住地域、年齢、喫煙状況、肥満指数、高血圧と糖尿病の既往の有無、運動習慣と身体活動の差が結果に影響しないように配慮して分析が行われましたが、死亡リスクに関わる飲酒以外の要因の影響がまだ残っている可能性があります。また、今回の研究では、アルコール飲料の種類別には検討していません。
それぞれのアルコール飲料のアルコール23gに当たる目安量を、表に示します。健康のためには、女性は1日あたりの平均でこの目安量を、男性はその2倍の量を超えないよう、適度な飲酒を心がけましょう。