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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

身体活動と大腸がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんなどのリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。

関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「ほぼ確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「ほぼ確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。

評価基準
関係強度定義記号
相対リスク統計的有意性
RR, 相対リスク; SS, 統計的に有意; NS, 統計的に有意でない
強い RR<0.5 または 2.0<RR SS ↑↑↑または↓↓↓
中程度 RR<0.5 または 2.0<RR NS ↑↑または↓↓
  1.5<RR≤2.0 SS  
  0.5<RR≤0.67 SS  
弱い 1.5<RR≤2.0 NS ↑または↓
  0.5≤RR<0.67 NS  
  0.67≤RR≤1.5 SS  
関連なし 0.67≤RR≤1.5 NS  -

その研究の一環として、このたび、身体活動と大腸がんについての評価の結果を専門誌に報告しました。(Jpn J Clin Oncol. 2012 Jan;42(1):2-13.)

身体活動によって大腸がんリスクはほぼ確実に低下する

日本では戦後、大腸がんが顕著に増加し、現在では罹患率が世界で最も高い国のひとつになっています。大腸がんの増加はライフスタイルの変化に起因すると考えられており、動物性脂肪・肉の摂取量の増加や繊維・穀物の摂取量の減少といった食生活の変化とともに、現代生活における身体活動量の減少によるものとされています。身体活動と大腸がんの関係については海外から数多くの研究報告があり、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による2007年の報告書では、身体活動によって大腸がんリスクは確実に減少すると結論づけています。今回の研究では、身体活動と大腸がんの関連について日本におけるこれまでの研究を系統的にレビューしました。

2011年までに報告された身体活動や運動と大腸がんリスクについて、日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。このテーマについて、2件のコホート研究(表1)と6件の症例対照研究(表2)が評価の対象として選ばれました。

(表1)運動と大腸がんリスクの関係まとめ(コホート研究)
文献番号研究期間対象集団関係の度合い
性別対象者人数年齢範囲転帰ケース数結腸直腸大腸
1 Lee KJ, Inoue M, Otani T, Iwasaki M, Sasazuki S, Tsugane S; JPHC Study Group. Physical activity and risk of colorectal cancer in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based prospective Study. Cancer Causes Control 2007;18:199-209.
2 Takahashi H, Kuriyama S, Tsubono Y, Nakaya N, Fujita K, Nishino Y, et al. Time spent walking and risk of colorectal cancer in Japan: the Miyagi Cohort study. Eur J Cancer Prev 2007;16:403-8.
1 1995-02 29,842 40-69 がん発生 290 ↓↓↓  -
    35,180 40-69 がん発生 196 ↑↑  -
2 1990-97 25,279 40-64 がん発生 166 ↓↓↓  - ↓↓
    26,642 40-64 がん発生 94  -  -  -
(表2)運動と大腸がんリスクの関係まとめ(症例対照研究)
文献番号研究期間対象集団関係の度合い
性別年齢範囲ケース数コントロール数結腸直腸大腸
結腸直腸大腸
1 Kato I, Tominaga S, Ikari A. A case-control study of male colorectal cancer in Aichi Prefecture, Japan: with special reference to occupational activity level, drinking habits and family history. Jpn J Cancer Res 1990;81:115-21.
2 Kato I, Tominaga S, Matsuura A, Yoshii Y, Shirai M, Kobayashi S. A comparative case-control study of colorectal cancer and adenoma. Jpn J Cancer Res 1990;81:1101-8.
3 Kotake K, Koyama Y, Nasu J, Fukutomi T, Yamaguchi N. Relation of family history of cancer and environmental factors to the risk of colorectal cancer: a case-control study. Jpn J Clin Oncol 1995;25:195-202.
4 Inoue M, Tajima K, Hirose K, Hamajima N, Takezaki T, Hirai T, et al. Subsite-specific risk factors for colorectal cancer: a hospital-based case-control study in Japan. Cancer Causes Control 1995;6:14-22.
5 Ping Y, Ogushi Y, Okada Y, Haruki Y, Okazaki I, Ogawa T. Lifestyle and colorectal cancer: a case-control study. Environ Health Prev Med 1998;3:146-51.
6 Isomura K, Kono S, Moore MA, Toyomura K, Nagano J, Mizoue T, et al. Physical activity and colorectal cancer: the Fukuoka Colorectal Cancer Study. Cancer Sci 2006;97:1099-104.
1 1979-87 ≧20 1,716 1,611 NP 16,600 ↓↓  NA
2 1986-90 男女 指定なし 132 91 NP 578 ↓↓ ↓↓  NA
3 1992-94 男女 指定なし 187 176 NP 363  -  NA
4 1988-92 24-86 126 131 NP 8,621  -  -  NA
    24-88 105 70 NP 23,161  -  NA
5 1986-94 男女 40-84 NP NP 100 265  NA  NA  -
6 2000-03 20-74 248 208 NP 470 ↓↓ ↓↓  NA
    20-74 190 132 NP 297 ↓↓↓  -  NA

コホート研究については、男性では、多目的コホート(文献1)において近位結腸がんに対する強い予防的な関連が、また宮城県コホート(文献2)においては結腸がんに対する強い予防的な関連が示されています。一方、女性では、多目的コホート研究において近位結腸がんに対する弱い予防的な関連がみられましたが、宮城県コホートにおいては関連が示されていません。直腸がんについては、男女とも予防的な関連を示す結果はありませんでした。大腸がん全体では、男性では弱いあるいは中程度の予防的な関連がありましたが、女性では関連がありませんでした。症例対照研究については、部位別に検討している5つのうち2つで結腸がんに対する中程度の予防的関連がみられ、1つで逆に近位結腸がんとの中程度の関連がみられ、残りの1つで遠位結腸がんに対する中程度あるいは強い予防的関連がみられました。直腸がんについても予防的関連を示すものがありましたが、結腸がんほどはっきりとした結果ではありませんでした。

疫学研究によって観察された身体活動と結腸がんとの予防的な関連は、肥満予防、炎症の減少、インシュリンおよびインシュリン様成長因子の低減、免疫反応の調整など、多くの生物学的メカニズムによって説明することができます。

以上を検討した結果、日本人では、身体活動は大腸がんリスクをほぼ確実に下げるという結論になりました。

結論

疫学研究の結果と生物学的なメカニズムの両面から、日本人においては、身体活動は大腸がんリスクをほぼ確実に下げるという結論になりました。部位別には、結腸がんリスクをほぼ確実に下げる一方、直腸がんリスクについては証拠が不十分でした。今回の研究では、海外における先行研究とおおむね合致する結論が得られたといえるでしょう。男女における関連の差異については、原因はよくわかっていませんが、仕事あるいは日常生活での身体活動量の違いから来ているのかもしれません。

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