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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

野菜・果物摂取と肺がんリスク

日本のコホート研究のプール解析

日本人の野菜・果物摂取と肺がんのリスク

野菜・果物の肺がん予防効果は、多くの症例対照研究やコホート研究において報告されていますが、なかでもカロテノイドの豊富な野菜の肺がん予防効果に近年注目が集まっています。食事とがんの関連の研究を評価する世界がん研究基金と米国がん研究機構(WCRF/ACIR)の報告書では、果物とカロテノイドの豊富な食物の肺がん予防効果は「ほぼ確実」であり、非でんぷん質の野菜は肺がんリスクを下げる「可能性がある」(研究結果は「証拠が限られているが示唆的」)と評価されています。国際がん研究機関(IARC)による報告書でも、メタアナリシスの結果、野菜・果物の摂取は肺がんに予防的であることが示されています。しかしながら、ベータカロテンのサプリメントを用いた臨床試験では肺がんリスクを減少させることができず、また、最近の大規模コホート研究からも一致した結果は得られていません。

そこで、今回、日本の4つのコホート研究の20万人以上のデータを併せたプール解析により、野菜・果物摂取と肺がんの関連をタイプ別に推定し、その研究成果を専門誌において発表しました(Cancer Sci. 2015年 106巻 1057-1065ページ)。

このプール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-IIから成る多目的コホート研究、JACC研究、宮城県コホート研究です。調査開始時の食事についてのアンケート調査の結果を用いて、野菜・果物の摂取量について1日にとる野菜全体、緑黄色野菜、果物全体、野菜と果物全体の摂取量(g)を推定し、摂取量順に5つのカテゴリーに区切りました。

 

果物摂取で男性の肺がんリスクが減る可能性

平均約11年間の追跡調査中に、1,742人が肺がんになりました。肺がんに関わるリスク要因である喫煙、総エネルギー量の違いが結果を左右しないように調整し、野菜・果物の摂取量カテゴリーごとの肺がん死亡と罹患リスクを算出しました。男性では、果物の摂取量と年齢と地域のみ調整した肺がん死亡リスクの間に統計学的に有意な負の関連がみられました。喫煙と総エネルギー量を調整したところ、関連は弱まりましたが、中程度(第3群)の摂取で死亡のリスクが29%(図1)、罹患のリスクが17%(図2)低下していました。特に喫煙経験者でリスク低下の傾向がよりはっきりみられました。

 

野菜摂取と肺がんの関連性

肺がん罹患リスクに関する分析では、野菜全体の摂取において、喫煙と総エネルギー量調整後、統計学的に有意なリスク上昇が男性ではみられましたが、女性では野菜全体の第2群を除いて関連がみられませんでした(図2)。また、野菜・果物摂取による肺がん罹患リスクの低下は、死亡リスクの低下と比べ、小さいこともわかりました。一方、野菜全体の摂取では、男性の最多群で肺がん罹患リスクが統計学的に有意に上昇する傾向がみられました。しかし、肺がん死亡リスクでは同様の上昇はみられませんでした。

この研究について

この研究では、野菜や果物の種類別の摂取量と肺がんの関連について、性別、喫煙状況別に検討しました。男性では、果物の摂取量に応じて、肺がん死亡および罹患リスクの低下がみられました。しかし、喫煙経験とエネルギー摂取について調整した後は、この関連は減少し、中等度の摂取においてリスク低下が認められるにとどまりました。男性でのみ、野菜摂取によってリスクの上昇がみられました。これらの結果は、死亡リスクにおいて見られなかったため、偶然であった可能性もありますが、野菜の摂取量と関連している未知の交絡因子の可能性を排除することはできません。

また、野菜摂取量最多群において肺がん罹患リスクの上昇がみられる理由として、検診の際に潜伏がんが見つかっていることがあげられます。がん検診受診者は、健康に気を配り、平均よりも多くの野菜を摂取している可能性があり、結果的に野菜の摂取量ががんの罹患リスクに見かけ上関連している可能性も考えられます。

この研究では、野菜・果物の摂取量についてのデータは研究開始時のもので、追跡中の変化を考慮した検討ができませんでした。また、肺がんの組織学的分類情報が不十分であったため、組織型別に肺がんリスクを検討することができなかった点についてもご留意ください。

 

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