科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
喫煙と乳がんリスク
日本の疫学研究に基づく関連性の評価
日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える
生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。(研究班ホームページ)
関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「おそらく確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「おそらく確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。
その研究の一環として、このたび、喫煙と乳がんについての評価の結果を専門誌に報告しました。(Jpn J Clin Oncol 2006年6月36巻387-394ページ)。
喫煙によって乳がんのリスクが高くなる可能性がある
乳がんとの関連が指摘されているものには、母や姉妹など血縁者の乳がん、早い初潮や遅い閉経年齢、出産関連の要因、閉経後の肥満、BRCA1,BRCA2の遺伝子変異、放射線があります。しかし、乳がんの約半数は、まだ知られていない原因によるものと考えられます。
日本人女性の喫煙率は、男性とは対照的に、低く抑えられてきました。しかし、近年、若い女性の間で喫煙者が増えてきました。乳がんも近年増加傾向にあり、たばことの関連が注目されます。乳がんリスクは、喫煙で高くなるのでしょうか。
今回、改めて、2005年までに報告された乳がんリスクについて、日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。このテーマについて報告された疫学研究には、3つのコホート研究と、8つの症例対照研究がありました。それらを検討した結果、日本では、喫煙によって乳がんリスクが高くなる可能性がӓ 4;るという結論になりました。
<文献>
- Hirayama T. Life-style and mortality.Basel: Kager 1990.
- Goodman MT et al. Prev Med 1997; 26:144-53.
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<文献>
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- Ueji M et al. Breast Cancer 1998; 5:351-8.
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関連
3つのコホート研究のうち1つで、非喫煙者に対し1.7倍という喫煙者の相対リスクが報告されていますが、他の2つでは関連がありませんでした。また、8つの症例対照研究のうち4つでは喫煙者で乳がんリスクが高くなっていましたが、他の4つでは関連がありませんでした。
今回、日本人を対象とした研究をまとめると、喫煙習慣で乳がんリスクが高くなる可能性がありそうでした。しかし、コホート研究の結果が一致していない上に、その数が3つでは十分とは言えません。確実な判定のためには、このテーマについて、今後さらにいくつかの研究結果が付け加えられる必要があります。
これまでのところ、欧米の研究のまとめでは、喫煙者と非喫煙者で乳がんリスクに差がみられたという報告はありません。日本と欧米の結果に差が生じた理由としては、関連する遺伝子型の分布の違いや、食事など生活習慣の違いの影響が考えられますが、明確にはわかりません。
結論
たばこの煙には数多くの発がん物質が含まれ、動物実験では乳がんの原因であり、また、ヒトでもたばこを吸うと代謝物が乳房組織に形成されることが確認されています。さらに、1つのコホート研究と複数の症例対照研究で、たばこによってヒトの乳がんリスクが上がるという結果が得られています。よって、日本人女性では、喫煙による乳がんリスク上昇の可能性があると考えられます。
より確かな判定のためには、日本人女性を対象とするコホート研究で、喫煙と乳がんリスクの関連を調べた結果が追加されるのを待たなくてはなりません。