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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

日本人における野菜・果物摂取と全がん罹患リスク

日本のコホート研究のプール解析

日本人における野菜・果物摂取と全がん罹患リスク

野菜・果物の摂取は、呼吸器や消化管等の多くのがんに予防的と評価されてきました。ところが、同じ前向きコホート研究で、がんと循環器疾患を同時に検討してその効果を比較すると、循環器疾患では比較的はっきりした予防効果にもかかわらず、がんについては一致した予防効果は認められていませんでした。これらの研究では、全がんリスクに対して野菜果物のより小さな予防効果を検出できなかっただけという可能性も排除しきれません。

野菜・果物摂取によるがん予防効果の大きさを決定する1つのアプローチは、より大規模なコホート研究で(検出力を高め)、がんの発生そのものを評価指標としてその関連を調べることです。我々の知る限りでは、10万人を超える規模の前向きコホート研究ではこれまでに3件だけ実施されていますが、結果は関連なしか、あっても非常に小さな予防効果を報告しているに過ぎません。しかも、これらは欧米で実施されており、アジアからの報告はありません。アジア人は、野菜果物の摂取パターンやがんの種類も欧米とは異なるため、野菜果物によるがん予防効果の大きさも異なる可能性があります。

そこで、今回、日本の6つのコホート研究からの約20万人のデータを併せたプール解析により、野菜・果物摂取と全ての部位のがんをあわせたがん全体(全がん)の罹患率との関連を検討しました。その結果、野菜や果物の摂取量によって全がんの罹患リスクは変わりませんでした。この結果を疫学専門誌において発表しました(J Epidemiol. 2017年web先行公開)。

このプール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-IIから成る多目的コホート研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究に、三府県コホート宮城研究、三府県コホート愛知研究を加えた計6コホート研究です。まず、それぞれのコホートにおいて、調査開始時の食習慣についてのアンケート調査の結果を用いて、野菜・果物の摂取量の1日あたりの摂取量(g)を算出し、摂取量順に5つのカテゴリーに区切りました(前者4研究)。高年齢、喫煙、飲酒、検診受診歴等のがん罹患率を高める別の要因の影響を取り除いたうえで(調整、統一の解析方法に基づいて)、野菜・果物の摂取量カテゴリーごとの全がん罹患リスクを算出し、その後、全てのコホートの結果を統合しています。さらに、摂取量(g)は算出できないまでも、摂取頻度の回答を得ている後者2コホート研究を加えた全6コホート研究(25万人)でも、同様の解析を行いました。 

 

野菜・果物ともに全がんリスク低下なし

最大約15年間の追跡調査中に、17,681人(20万人中)が何らかのがんになりました。男性では、果物の摂取量と年齢と地域のみ調整した全がん罹患リスクの間に統計学的に有意な負の関連がみられましたが、他の喫煙、飲酒、検診受診歴等の要因を調整したところ、この関連は消失しました。野菜摂取と全がん罹患リスクの間にも、関連は認められませんでした(図1)。女性でも、野菜・果物のいずれも、全がん罹患リスクとの間に、関連は見られませんでした(図2)。 

 

野菜・果物とがんの関係を否定する研究が多い

今回の研究では、国内のコホート研究を統合することによって約20万人もの規模で統計学的に検出力の極めて高い解析ができました。野菜・果物とがん罹患の関連を検討した10万人を超える規模のコホート研究では、これまでに欧米からは3件報告されています。そのうち2件の、50万人級の非常に大規模な研究で、野菜のみ、ごく小さな予防的関連(高摂取により2%~6%の罹患率の低下)を見出していますが、果物には予防的関連は報告されていません。一方、アジアからは、死亡率を評価指標とした中国の前向きコホート研究の報告がありますが、やはり野菜も果物もがんと関係なしと報告されています。野菜や果物と部位別のがんとの関連を調べた研究でも、近年、関連が見られなかったという報告が多くなっています。

 

野菜・果物とがんとの関連が見られない要因とその考察

①摂取量による群間の差(の多い、少ないの幅)が十分であったか:コホート間で質問票は異なりますが、野菜の最大、最小の摂取量の差は少なくとも2~3倍で、ごく小さな予防効果を検出できた欧米の研究でも2.5~3倍ですので、摂取量の差としては同じようなものです。さらに、果物においては、それらのどの大規模研究においても、野菜摂取量の差より大きいの(3.2~6.5倍)に、いずれも全がんとの関連は報告されていません。したがって、摂取量の差の大きさは、今回の”関連なし”の要因ではないと考えられます。 ②コホート間で質問票が異なるために、全体としてそれぞれのランキングを正しく統合できていない可能性:この可能性について検討するために、6コホートにおいて量(g)ではなく、摂取頻度(回答そのもの)を用いた解析を同様に行いました。しかし、量(g)を用いた結果と変わりませんでした。 ③質問票による推定精度(誤分類):簡単なアンケートにより摂取量を推定していますので、本当は少ない人が多い群に、あるいはその逆に誤分類されてしまうことが起こりえます。この場合、通常、摂取量と疾病との関連性は統計学的に弱まると言われています。この理由により、ごく小さな関連が検出できなかった可能性は否定できません。その他、がん検診受診歴や喫煙など、可能な限り共通の方法で変数を作成し、調整(影響を除外)しましたが、それらの影響が十分に除外しきれていないのかもしれません。

 

野菜や果物は、やはり積極的に

今回、野菜・果物の効果が見られなかったという結果は、がん全体で見た場合の結果であり、現時点では胃がん(一部)や、肺がん(中程度摂取、喫煙経験者)、乳がん(一部のタイプ)などいくつかの個別の部位のがんに野菜果物が予防的との評価に変わりはありません。循環器疾患やその他、がん以外の生活習慣病を予防する見地からも、「野菜・果物不足にならない。例えば、野菜は毎食、果物は毎日食べて、少なくとも1日400グラムとる。」ことが推奨されます。(https://epi.ncc.go.jp/can_prev/93/3850.html#suisho3

 

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