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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

飲酒と乳がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。 (研究班ホームページ

関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「おそらく確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「おそらく確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。

その研究の一環として、このたび、飲酒と乳がんについての評価の結果を専門誌に報告しました。(Jpn J Clin Oncol. 2007年8月37巻568-574ページ

飲酒と日本人女性の乳がん

飲酒習慣によって乳がんリスクが高まることを指摘する研究結果は数多く、国際的な総合評価でも飲酒によって乳がんリスクは確実に高くなるとされています。

しかしながら、その科学的根拠となったのは主に欧米の研究結果であり、日本人女性の乳がんに飲酒がどの程度影響しているのかはわかっていません。

今回、改めて、2006年までに報告された飲酒習慣と乳がんリスクについて、日本人女性を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。このテーマについて報告された疫学研究には、3つのコホート研究と8つの症例対照研究がありました。それらを検討した結果、日本人女性については、飲酒習慣と乳がんリスクの関連を見極めるにはまだ疫学研究からの科学的根拠が不足している(不十分)という結論を得ました。

コホート研究

3つのコホート研究の結果(表1)には一貫性がなく、アルコール摂取量の多いグループ(日にエタノール換算で15g以上)で乳がんリスクが上昇したのは3つのうち1つだけでした。逆に、アルコール摂取量の多いグループで乳がんリスクが下がっていたものもありましたが、その関連は統計学的に有意ではありませんでした。

症例対照研究

6つの症例対照研究の結果(表2)のうち、2つがアルコール摂取量の多いグループで乳がんリスクの上昇を報告していますが、そのうちの1つは閉経前女性だけで強い関連が示されています。逆に、アルコール摂取量の多いグループで乳がんリスクが下がっていたものも1つありました。その他の研究では、有意な関連は見られませんでした。

表1 飲酒と乳がんの関連 コホート研究のサマリーテーブル

表2 飲酒と乳がんの関連 症例対照研究のサマリーテーブル

日本人の飲酒と乳がんリスクとの関連

今回の総合評価の結果、日本人において飲酒習慣と乳がんリスクの関連を見極めるにはまだ疫学研究からの科学的根拠が不足している(不十分)という結論を得ました。飲酒と乳がんに関連がみられなかったという結果が多かったのですが、その理由として、飲酒の乳がんへの影響が弱く、さらに日本人女性では飲酒習慣のある、あるいは大量に飲むグループの割合が非常に小さいことが考えられます。国際的な総合評価では、アルコール摂取量が日にエタノール換算で10g増すごとに、乳がんリスクが10%高くなると推定しています。また、アルコールによって乳がんリスクが高くなるという生物学的なメカニズムを示す研究結果がいくつかあります。

今回の総合評価では、ほとんどの研究でアルコール摂取量までは示されていませんでした。日本人で飲酒の乳がんへの影響を正確に見極めるには、今後、飲酒習慣のある女性グループの人数がある程度確保された大規模な集団を対象に、飲酒量をより正確に調査するような疫学研究を実施する必要があります。

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