科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
日本人におけるコーヒー飲用と大腸がんリスク
日本のコホート研究のプール解析
日本人におけるコーヒー飲用と大腸がんリスク
大腸がんは戦後、急増し、がんの中で死亡の順位は男性で第3位、女性では第1位です(2016年)。世界的に飲用されているコーヒーは、発がん促進作用のある腸内の胆汁酸の抑制、炎症やインスリン分泌過多といった大腸発がんに関連した病態への予防的な作用が報告されており、大腸がんとの関連が注目されています。しかしながらコーヒー飲用と大腸がんの研究を総括したいくつかのメタアナリシスの結果は一致していません。当研究班でも、日本人を対象にしたコーヒー飲用と大腸がんに関する研究を対象にメタアナリシスを行いましたが、やはり関連は認めませんでした(コーヒー飲用と大腸がんリスク)。しかしながら、コーヒー飲用量の定義の仕方や、コーヒー以外の解析の時に考慮する要因が研究ごとに異なっているため、大腸がんとの関連を感度よく検出できなかった可能性もあります。今回、日本の8つの大規模コホート研究から32万人以上を統合したプール解析を行い、日本人におけるコーヒー飲用と大腸がんリスクとの関連を検討し、その研究成果を国際専門誌において発表しました。(Int J Cancer 2018年WEB先行公開)
本プール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-II(いずれも多目的コホート研究)、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究に、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究の計8コホート研究です。それぞれのコホートで使用している食習慣アンケート調査結果から、コーヒー摂取量を1日1杯未満、1日1-2杯、1日3杯以上の3つのカテゴリーに分けました。大腸がんの主なリスク要因を統計学的に調整した上で、1日1杯未満に対する他のカテゴリーの大腸がん罹患リスクを算出し、その後、全てのコホートの結果を統合しました。
女性においてコーヒー飲用は結腸がんリスクの低下と関連
コーヒー飲用と大腸がん、および大腸の各部位のがん(結腸がん、直腸がん、近位結腸がん、遠位結腸がん)との関連を分析しました。その結果、男性では、大腸がんおよび大腸の各部位のがんについてコーヒー飲用との明らかな関連はみられませんでした(下図)。女性では、大腸全体では関連を認めませんが、大腸の部位別の解析により、1日に1杯未満のコーヒー飲用グループに比べて1日に3杯以上飲むグループでは結腸がんリスクが20%、統計学的に有意に低下していました(下図)。リスク低下の度合いは遠位結腸と近位結腸との間に統計学的に意味のある差は認めませんでした。直腸がんでは関連はみられませんでした。
この研究について
本研究では、男女ともにコーヒー飲用と大腸がんリスクとの関連は認めませんでしたが、部位ごとの解析で女性の結腸がんにおいてコーヒー飲用がリスク低下と関連していました。コーヒー飲用による結腸がん予防のメカニズムとして、発がん促進作用のある腸内の胆汁酸や大腸がんリスクに関連した炎症、インスリン抵抗性やインスリン分泌が抑えられることがまず挙げられます。その他にも、腸の運動を活発にする作用があります。また、コーヒーの成分には、抗酸化作用を持つポリフェノールやビタミンEやマグネシウム、カリウムなどのミネラルが結腸がんのリスク低下に寄与している可能性が考えられます。