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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

魚をほとんど食べない人で大動脈疾患死亡が約2倍に増加

日本のコホート研究のプール解析

魚をほとんど食べない人で大動脈疾患死亡が約2倍に増加

  

研究の背景

大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離)は、かつては日本での死亡率は多くありませんでしたが、高齢化に伴って近年やや増加しています。大動脈瘤が破裂したり、大動脈が裂けたりすると、医療が進んだ現代でも急速に死に至ることが多いことから、その予防が重要です。この病気は、主に動脈硬化が基盤として生じることから、心筋梗塞と同様に魚がその予防に働く可能性が考えられていましたが、その科学的エビデンスはほとんどない状況でした。
というのは、大動脈疾患は、増加しているとはいえ、がんや脳卒中などに比べると少なく、このために大規模コホート研究であっても単独での検討が困難でした。今回、日本の8つの大規模コホート研究から36万人以上を統合したプール解析を行い、日本人における魚摂取頻度と大動脈疾患死亡リスクとの関連を分析し、その研究成果を国際専門誌に発表しました(Clinical Nutrition 2018年WEB先行公開)。魚摂取と大動脈疾患死亡との関連を疫学的に示したのは世界で初めてです。

 

研究内容と成果

本プール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-II(いずれも多目的コホート研究)、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究の計8コホート研究です。それぞれのコホートで使用している食習慣アンケート調査結果から、魚摂取頻度を、ほとんど食べない、月1-2回、週1-2回、週3-4回、ほとんど毎日の5つの群に分けました。循環器疾患の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、ほとんど食べない群に対する他の群の大動脈疾患死亡リスクを算出し、その後、全てのコホートの結果を統合しました。
その結果、魚を週1-2回食べる群と比べ、ほとんど食べない群では、大動脈解離で死亡するリスクが2.5(95%信頼区間1.1-5.5)倍、大動脈瘤で2.0(同0.9-4.4)倍、これらをあわせた大動脈疾患全体では1.9(同1.1-3.3)倍高くなりました(図1,2)。一方、月に1-2回食べる群では、魚を週1-2回食べる群と比べて大動脈解離で死亡するリスクの上昇はみられませんでしたが、大動脈瘤で1.9(同0.9-4.0)とややリスクが上昇する傾向が見られました。一方、週3-4回食べる群、ほとんど毎日食べる群では、リスクの大きさはかわりませんでした。

 

 図1 魚摂取頻度と大動脈疾患(大動脈瘤・解離合計)死亡

 

※ハザード比は魚摂取頻度が週1~2回の群を基準とし、性別、年齢、Body Mass Index、喫煙、飲酒、地域を調整。図中の●はハザード比を、その上下の棒が95%信頼区間の範囲を示す。

図2 魚摂取頻度と大動脈瘤・解離死亡

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※ハザード比は魚摂取頻度が週1~2回の群を基準とし、性別、年齢、Body Mass Index、喫煙、飲酒、地域を調整。図中の■●はハザード比を、その上下の棒が95%信頼区間の範囲を示す。

 

この研究について

本研究では、魚をほとんど食べないような非常に魚の摂取頻度が少ない場合に、大動脈疾患で死亡するリスクが上がり、魚摂取が少なくとも月1-2回食べていれば大動脈疾患で死亡するリスクは高くならないことがわかりました。魚の摂取が極端に少なくならないことが大動脈疾患死亡を予防するために重要だと考えられます。なお、魚の高摂取は心筋梗塞のリスクを低下させることがわかっていますので、魚の摂取が極端に少なくならないよう気をつけるだけでなく、より多く摂取していくことが循環器疾患予防につながると考えられます。

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