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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

喫煙と膵臓がんリスク

日本のコホート研究のプール解析

喫煙と膵臓がんリスク

 

喫煙と膵臓がんリスクとの関連は、これまでの研究から確実であるとされています。しかしながら、日本人を対象として喫煙による膵臓がんリスクを詳細に評価した大規模な前向き疫学研究は十分に実施されていません。そこで、日本を代表する10コホート研究から35万人以上を統合したプール解析を行い、膵臓がんリスクと喫煙との関連を、特に性差に焦点を当てて検討し、その研究成果を専門誌において発表しました。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2019 Aug;28(8):1370-1378.)

 このプール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-II(いずれも多目的コホート研究)、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究に、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、高山コホート研究、3府県大阪コホート研究、放影研寿命調査の10研究です。 この研究では、喫煙状況、累積喫煙量、禁煙年数について膵臓がんとの関連を男女それぞれで評価しました。喫煙状況は「生涯非喫煙、過去喫煙、現在喫煙」の3グループに分類しました。累積喫煙量は喫煙指数(パックイヤー:たばこ1箱を20本として、1日当たりの喫煙箱数と喫煙年数をかけあわせた値)という指標を用いて、男性では「生涯非喫煙、0超過20以下、20超過40以下、40超過60以下、60超過」の5グループ、女性では「生涯非喫煙、0超過20以下、20超過40以下、40超過」の4グループに分類しました。禁煙年数は「生涯非喫煙、禁煙10年以上、禁煙5年以上10年未満、禁煙5年未満、現在喫煙」の5グループとしました。膵臓がんリスクに関連する他の要因(年齢、地域、Body mass index、飲酒、糖尿病の既往、受動喫煙の有無)の偏りが結果に影響を与えないように統計的に調整した上で、生涯非喫煙者を1(基準)とした時の他のグループの膵臓がんリスクを算出しました。

平均で約13年の追跡期間中に1,779人(男性961人、女性818人)が膵臓がんになりました。生涯非喫煙者に比べ現在喫煙者の膵臓がんリスクは男女とも増加していました(男性で1.59倍、女性で1.81倍)。一方で、過去喫煙者や累積喫煙量20以下という累積喫煙量の低いグループでのリスク上昇は女性のみで認められ(図1、2)、この関連は受動喫煙の有無にかかわらず一貫していました。男女とも累積喫煙量が10増えるごとに膵臓がんリスクは6%ずつ増加していましたが、男性で統計学的に有意であったのに対し女性では有意ではありませんでした(図2)。また、男性では禁煙後5年で生涯非喫煙者と同等までリスクが下がっていたのに対し、女性では禁煙によるリスク軽減は認められませんでした(図3)。

 

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 本研究でみられた性差の原因として、膵臓がんに対して予防的に働く可能性が示唆されているエストロゲンが喫煙により低下するためである可能性などが考えられました。しかしながら、女性の喫煙経験者の人数が少ないことから、本研究でみられた性差は統計学的な偶然による可能性は否定できず、解釈には注意が必要です。

本研究により、日本人においても、確立された喫煙と膵臓がんとの関連を確認できました。さらに、日本人では膵臓がんにおける喫煙の影響には性差がある可能性が示唆されました。禁煙は、特に男性において、膵臓がん予防に効果的であることが分かりました。

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