トップ >科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 >現在までの成果 >日本人における飲酒と膀胱がんリスク

科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

日本人における飲酒と膀胱がんリスク

日本のコホート研究のプール解析

日本人における飲酒と膀胱がんリスク

 

主に欧米人を対象とした海外の複数の疫学研究結果をまとめたメタ解析では、飲酒と膀胱がん罹患の関連はないと報告されています。しかしながら、欧米人と異なり、日本人においては、約半数がアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを代謝する酵素の働きが弱いことがわかっています。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドには、発がん性があることが明らかになっており、また、アセトアルデヒドを代謝する酵素の働きが弱い日本人では、飲酒によって膀胱がんのリスクが上昇することも、これまでの研究結果から示唆されています。以上のことより、日本人においては飲酒と膀胱がんの関連が認められる可能性が考えられましたが、日本人を対象とした大規模な研究は行われないのが現状でした。

 そこで、今回、日本の大規模コホート研究から60万人以上を統合したプール解析を行い、日本人における飲酒と膀胱がんの関連を検討し、その研究成果を専門誌において発表しました (J Epidemiol. 2019年web先行公開)。

本プール解析に参加したのは多目的コホート研究 (JPHC-I、JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究、高山研究、大崎国民健康保険コホート研究、寿命調査の計10コホート研究です。それぞれのコホート研究で使用している飲酒習慣のアンケート調査結果から、男性における飲酒を「現在非飲酒」、「機会飲酒 (週1回未満)」、「週23g未満 (エタノール換算)」、「週23-45.9g」、「週46-68.9g」、「週69g以上」の6つのカテゴリーに分けました。女性においては飲酒者が少なかったため、飲酒を「現在非飲酒」、「機会飲酒 (週1回未満)」、「定期飲酒 (週1回以上飲酒)」の3つのカテゴリーに分けました。膀胱がんリスクに影響を与える要因 (地域、年齢、喫煙)を統計学的に調整した上で、非飲酒に対する、その他の飲酒カテゴリーの膀胱がん罹患リスクを算出し、その後、全てのコホート研究の結果を統合しました。

 

男女ともに飲酒と膀胱がんの有意な関連は認めず

平均で約13年の追跡期間中に、1261人(男性936人、女性325人)の膀胱がん罹患が確認されました。男女ともに、飲酒と膀胱がん罹患の有意な関連を認めませんでした (下図)。膀胱がん罹患の最大の危険因子である喫煙の影響を除外するために、非喫煙者のみでも同様の解析を行いましたが、やはり飲酒と膀胱の関連は認めませんでした。

57_1

 

この研究について

本研究では、男女ともに飲酒と膀胱がん罹患リスクの関連は認めませんでした。しかしながら、アセトアルデヒドを代謝する働きが強い酵素を持っている日本人が約半数いることが、日本人全体の飲酒による膀胱がん罹患のリスクを低く見せている可能性を完全には否定できません。飲酒 (アセトアルデヒド)と膀胱がんとの影響を明らかにするには、アセトアルデヒドを代謝する酵素に関係する遺伝子を測定する必要があります。今後、遺伝子を考慮した大規模なコホート研究を行うことが望まれます。

 

上に戻る