科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
日本人における飲酒と乳がんリスク
日本のコホート研究のプール解析
日本人における飲酒と乳がんリスク
Iwase M, Matsuo K, Koyanagi YN, et al. Alcohol consumption and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies. Int J Cancer. 2021 Jan 26. doi: 10.1002/ijc.33478. Epub ahead of print.
これまでの欧米を中心とした研究から、飲酒は乳がんリスクを上昇させることが確実であるとされています。しかし日本人女性は欧米女性と比較すると飲酒習慣も少なく、またアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの代謝酵素の働きが弱い人が多いなど、飲酒にまつわる背景が欧米とは異なります。そのような背景の違いから、日本人では欧米人とは異なる傾向が認められる可能性が考えられましたが、これまで日本人を対象とした大規模な研究は行われていない状況でした。そこで、日本を代表する8つのコホート研究から15万人以上を統合したプール解析を行い、乳がんリスクと飲酒との関連を特に閉経状態に注目して検討し、その研究成果を専門誌において発表しました(Int J Cancer . 2021 Jan 26. doi: 10.1002/ijc.33478. Online ahead of print.)。
本プール解析に参加したのは多目的コホート研究(JPHC-I、JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国民健康保険コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、放影研寿命調査の計8研究で、対象者は158,164人の女性です。それぞれのコホート研究で使用している飲酒習慣のアンケート調査結果から、飲酒習慣を頻度と量に分けて検討し、頻度は「現在非飲酒」、「機会飲酒(週1日以下)」、「ときどき(週1日以上4日以下)」、「ほとんど毎日(週5日以上)」の4つのカテゴリーに、量は1日飲酒量で「0g」、「0-11.5g」、「11.5-23g」、「23g以上」の4つのカテゴリーにそれぞれ分類しました。乳がんリスクに影響を与える他の要因(年齢、地域、閉経状況、喫煙、BMI、初経年齢、出産数、女性ホルモン薬の使用、余暇の運動)を統計学的に調整したうえで、非飲酒に対するその他の飲酒カテゴリーの乳がん罹患リスクを算出し、プール解析を行いました。また乳がんの罹患は、閉経状態に基づき閉経前乳がんと閉経後乳がんに分け、それぞれに対する飲酒の影響を検討しました。
飲酒頻度、飲酒量の増加により閉経前乳がんのリスクが上昇
平均して14年の追跡期間中、2,208人が乳がんに罹患しました。調査時の閉経状態に基づいて分類した閉経前乳がんにおいて、飲酒頻度では非飲酒者と比較して最も頻度の高い飲酒者の群で1.37倍、飲酒量では1日摂取量が0gの群と比較して23g以上の群で1.74倍、乳がんの罹患リスクが高くなりました(図1)。また、飲酒の頻度、量ともに増加すればするほど罹患リスクが高くなる傾向がみられました。一方で、閉経後乳がんにおいては飲酒頻度、飲酒量ともに乳がんリスクとの有意な関連は認められませんでした(図2)。
この研究について
この研究結果から、日本人においても欧米での報告と同様に閉経前乳がんでは飲酒が乳がんの罹患リスクを上昇させることが明らかとなりました。一方で閉経後乳がんでは、日本人では有意な関連が認められませんでした。これらの結果は診断時の閉経状態に基づいた分類においても同様の傾向を示しました。
本研究において、海外の結果と異なり日本人では閉経状態によって飲酒と乳がんリスクの関連に乖離がみられました。この原因としては、本研究に参加した日本人女性のうち、閉経後女性では閉経前女性と比較しても飲酒習慣のある女性の割合が少なく、それにより飲酒の影響が小さく見積もられてしまった可能性や、日本人は肥満の割合が少なく、閉経後はエストロゲンの供給が主に脂肪細胞由来となるため、飲酒がエストロゲンを介して乳がん罹患に及ぼす影響が欧米女性よりも弱まる可能性などが考えられました。
本研究の概要は、こちらをご覧下さい。
飲酒と乳がん罹患リスクの関係を大規模コホート研究のデータを用いて解明
出典:愛知県がんセンター