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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

日本人における女性生殖要因と乳がん罹患の関連

日本のコホート研究のプール解析

日本人における女性生殖要因と乳がん罹患の関連

 

女性生殖要因と乳がん罹患の関連については多くの先行研究がありますが、結果は必ずしも一致していません。例えば、授乳歴については、海外の先行論文では、授乳歴がある女性では授乳歴がない女性に比して乳がん罹患リスクが有意に低いことが報告されています。一方、日本の先行論文では、授乳歴の有無と乳がん罹患リスクの間に有意な関連はないと報告されています。
今回、日本の大規模コホート研究から18万人以上を統合したプール解析を行い、日本人における女性生殖要因と乳がん罹患の関連を解析し、その結果を専門誌において発表しました(Cancer Med, in early view. https://doi.org/10.1002/cam4.3752)。

 

プール解析の対象としたのは、多目的コホート研究(JPHC-I、JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、高山研究、大崎国保コホート研究、放影研寿命調査の計9個のコホート研究です。各研究において、6つの女性生殖要因(①初経年齢、②初産年齢、③出産数、④閉経年齢、⑤女性ホルモン製剤使用歴、⑥授乳歴)と乳がん罹患の関連を、それぞれコックス比例ハザードモデルを用いて解析しました。解析は、閉経前女性、閉経後女性に層別化して行いました。その後、9個のコホート研究の解析結果を統合しました。

 

解析対象者は閉経前女性61,113名、閉経後女性126,886名の計187,999名でした。①初経年齢については、閉経前女性・閉経後女性いずれにおいても乳がん罹患リスクとの有意な関連は認められませんでした。②初産年齢(図1)については、閉経前女性では初産年齢36歳以上の群、閉経後女性では初産年齢26〜30歳および31〜35歳の群で、初産年齢21〜25歳の群と比較して乳がん罹患リスクが有意に高くなっていましたが、初産年齢の増加に伴う乳がん罹患リスクの有意な増加傾向は認められませんでした。③出産数(図2)については、閉経前女性では出産数2人以上の群で、未経産の群と比較して乳がん罹患リスクが有意に低くなっていましたが、出産数の増加に伴う乳がん罹患リスクの有意な減少傾向は認められませんでした(傾向性P値=0.30)。一方、閉経後女性では、出産数の増加に伴って乳がん罹患リスクが有意に減少していました(傾向性P値=0.03)。④閉経年齢(図3)については、閉経年齢50歳以上の群では閉経年齢44歳以下の群と比較して乳がん罹患リスクが有意に高くなっていましたが、閉経年齢の増加に伴う乳がん罹患リスクの有意な増加傾向は認められませんでした(傾向性P値=0.37)。⑤女性ホルモン製剤使用歴(図4)については、閉経前女性においては、女性ホルモン製剤使用歴がある群で、使用歴がない群と比較して乳がん罹患リスクが1.5倍と有意に高くなっていました。一方、閉経後女性では女性ホルモン製剤使用歴の有無と乳がん罹患リスクの間に有意な関連は認められませんでした。⑥授乳歴(図5)については、閉経前女性・閉経後女性いずれにおいても乳がん罹患リスクとの有意な関連は認められませんでした。

 

図1 初産年齢と乳がん罹患リスクの関連

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図2 出産数と乳がん罹患リスクの関連

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図3 閉経年齢と乳がん罹患リスクの関連

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図4 女性ホルモン製剤使用歴と乳がん罹患リスクの関連

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図5 授乳歴と乳がん罹患リスクの関連

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本研究結果から、女性ホルモン製剤の使用により閉経前日本人女性において乳がん罹患リスクが有意に高くなることや、出産数が増加するにつれて閉経後日本人女性において乳がんリスクが有意に減少することが明らかになりました。閉経前に女性ホルモン製剤(主に経口避妊薬)の使用の多い欧米の研究からは、閉経前における比較的最近の女性ホルモン製剤の使用が閉経前の乳がんリスクを増加させる一方、閉経後に起こる乳がんのリスクの増加は明確でないことが示されています。今回の解析では同様の結果が得られました。なお本研究では女性ホルモン製剤の種類の詳細に関する情報を得ることができなかったため、具体的にどのような種類の女性ホルモン製剤の使用歴が乳がん罹患リスクと関連しているのかについて、さらなる研究が必要です。

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