科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク
日本の疫学研究に基づく関連性の評価
ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク
「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんなどのリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。この研究の一環として、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんについての評価をしました。
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)感染は、胃がんの最も重要なリスク因子です。国際がん研究機関は、日本のような胃がんが多い国ではピロリ菌感染者に対する除菌治療を推奨しています。日本ではピロリ菌除菌が胃がんリスクの低下と関連することが認められているものの、個々の研究の質を批判的に吟味したエビデンスサマリーが少ないのが現状です。そこで本研究では、これまで日本で報告されているピロリ菌除菌と胃がんリスクに関する疫学研究の系統的レビューによるエビデンス評価を行いました(Jpn J Clin Oncol 2021)。
MEDLINEおよび医中誌のデータベースを用いて、一定の基準により日本人におけるピロリ菌除菌と胃がんリスクに関する疫学研究を検索しました。その結果、19件の研究(英語13件、日本語6件)を特定しました。1件の介入研究を除いて、ほかのすべての研究は観察疫学研究であり、追跡期間は2~11年でした。
図1 ピロリ菌除菌と胃がん罹患リスクの関連についての系統的レビューとメタ・アナリシスの結果
19件の研究を統合してピロリ菌除菌の胃がん罹患に対する相対リスクを推計するメタ・アナリシスを行ったところ、非除菌群に比べ、除菌群では胃がん罹患リスクは0.42(95%信頼区間;0.35-0.51)と有意な低下が見られました(図1)。さらに、胃がんに罹患したことのない人(健常人)を対象とした10件の観察疫学研究のメタ・アナリシスでは、ピロリ菌除菌群における胃がん罹患リスクは0.34(95%CI:0.25-0.46)と有意な低下が認められました。同様に、内視鏡的切除を受けた早期胃がん患者を対象とした9件の研究に限定したメタ・アナリシスにおいても、除菌群は異時性(複数の腫瘍あるいは病変で、初発腫瘍と後発腫瘍の間隔が2か月を超える場合)の胃がん罹患リスクが0.50(95%CI:0.39-0.66)となり、内視鏡的切除後の早期胃がん患者でも除菌により異時性胃がん罹患リスクが低下しました。
今回の系統的レビューでは、ピロリ菌除菌による胃がん予防効果に関する研究結果をまとめた結果から、除菌治療が胃がん罹患の予防に有効であることが示されました。さらに、19件の研究を統合したメタ・アナリシスでは、ピロリ菌除菌により、胃がんのリスクがほぼ半減することが明らかとなりました。
結論
今回のレビュー結果および生物学的機序を総合的に検討した上で、日本人においてピロリ菌除菌による胃がん罹患リスク低下についての科学的根拠は「確実」であるという結論になりました。