科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
日本人における低用量喫煙と死亡のリスク
日本のコホート研究のプール解析
日本人における低用量喫煙と死亡のリスク
喫煙によって毎年7百万人以上が亡くなっています。日本では近年喫煙率は減少傾向ですが、1日あたり1~10本の低用量喫煙者の割合は増加傾向となっています。2003年と2017年を比較すると、男性では15.5%から34.0%、女性では43.4%から53.4%で、2017年では女性の喫煙者の半数以上が低用量喫煙者でした。低用量喫煙は喫煙による害が少ないのではないかと認識されていましたが、近年、低用量喫煙であっても死亡リスクが高いという欧米からの報告が増えています。しかし、日本人を対象とした報告はなく、アジア人を対象とした報告もほとんどありませんでした。そこで、日本人における低用量喫煙と死亡リスクとの関連を評価するため、9の前向きコホート研究のプール解析を行い、その研究結果を発表しました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34718588/)。
日本のコホート研究(多目的コホート研究コホートI群とコホートII群、JACC研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、大崎国保コホート研究、三府県愛知コホート研究、3府県大阪コホート研究、放影研寿命調査)のうち、410,294人の研究参加者(男性45.8%)を追跡し、そのうち93,485人(男性が60.5%)の死亡が確認されました。追跡期間は1983年から2017年で、平均追跡期間は12.0年から27.6年でした。
非喫煙者と比較したところ、男女ともに低用量喫煙者における全死亡リスクは高くなりました。男性では、1日あたり喫煙本数が3~5本で1.45倍、6~10本喫煙者で1.49倍、女性では1日あたり喫煙本数1~2本で1.28倍、3~5本で1.49倍、6~10本で1.68倍でした(図1)。
死因別の分析では、非喫煙者と比べて、男性では1日あたり喫煙本数が1~2本で喫煙関連がん*による死亡リスクが1.50倍、循環器疾患による死亡リスクが1.42倍と高くなりました。さらに、1日あたり喫煙本数が3~5本では、全がん、喫煙関連がん、循環器疾患、肺がんによる死亡リスクが高く、1日あたり喫煙本数が1~5本では虚血性心疾患、呼吸器疾患による死亡リスクが高くなりました。女性では、非喫煙者と比べて、1日あたり喫煙本数が3~5本では喫煙関連がんによる死亡リスクが1.43倍、循環器疾患による死亡リスクが1.74倍、全がんによる死亡リスクが1.33倍高くなりました。さらに、1日あたり喫煙本数が1~5本で肺がん、虚血性心疾患、くも膜下出血、呼吸器疾患による死亡リスクが高くなりました。
*口腔、鼻咽頭、副鼻腔、喉、肺、食道、胃、膵臓、大腸、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、子宮頸部のがん
また、男女ともに非喫煙者と比べると過去喫煙者では全死亡リスクが高くなりましたが、過去喫煙者の中でも禁煙年齢が早いほど全死亡リスクが低くなる傾向がみられました(図2)。この傾向は低用量喫煙者でも同様の結果となりました。
この研究結果から、日本人において、1日あたり1~2本の低用量喫煙であっても非喫煙者と比べると死亡リスクは高く、また低用量喫煙者であっても、早く禁煙するほど死亡のリスクが軽減することが示されました。日本では加熱式たばこ市場が拡大していますが、加熱式たばこと紙巻たばこの二重使用者においては、低用量喫煙者と同様に死亡リスクが高い可能性が考えられます。喫煙本数に関わらず禁煙することが最良の選択であると考えられます。