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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

C型慢性肝炎抗ウイルス療法と肝がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

C型慢性肝炎抗ウイルス療法と肝がんリスク

「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班では、主要なリスク要因について、がん全体および部位別のがんなどのリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、それぞれの研究についての関連の強さの評価と、科学的根拠としての信頼性の強さの総合評価を行っています。この研究の一環として、C型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がんについて、系統的レビューとメタ・アナリシスによる評価をしました。

C型肝炎ウイルスの慢性感染は、肝がんの最も重要なリスク因子です。世界保健機関は、B型およびC型肝炎ウイルス慢性感染の克服を、国際的な公衆衛生上の課題として持続可能な開発目標(SDGs)に取り上げ、治療に向けた対策を推進しています。日本を含む各国におけるC型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がんリスク低下に関する研究については、メタ・アナリシスが海外から報告されています。しかし、病態や治療効果に影響するC型肝炎ウイルス遺伝子型は地理的分布の差異があり、従来の治療の主流であったインターフェロン療法の治療効果に影響する宿主のIL-28B遺伝子多型の人種による差異が報告されており、海外からの報告だけでは日本人における抗ウイルス療法の効果はわかりませんでした。そこで、本研究では、これまで日本で報告されているC型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がんリスクに関する疫学研究について、系統的レビューによるエビデンス評価を行いました(Sci Rep. 2023)。

データベースとしてMEDLINEを用いて、一定の基準により、日本人におけるC型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がん罹患に関する疫学研究を検索しました。その結果、26件の研究を特定しました。すべて観察疫学研究であり、追跡期間は2~11年でした。この系統的レビューは、現在の治療の主流である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)による経口療法は含まれず、インターフェロン療法に関する研究が対象です。「治療群」を、治療によってHCVの血中マーカーが陰性になった群、「非治療群」を、治療後に血中マーカーが陰性にならなかった、あるいはHCVの治療を受けなかった群とし、非治療群に対する治療群の肝がんの罹患リスクについて評価しました。

選択した研究のうち 25 件の研究について、症例数、対象者数、追跡期間等のデータを各研究から抽出し、単解析の統合解析を行いました。その結果 、肝がんの罹患率(/100人年)は、治療群で0.38 (95%信頼区間:0.32-0.46)、非治療群で1.75 (95%信頼区間:1.54-1.99)でした。また、治療群と非治療群の罹患率比は0.22 (95%信頼区間:0.18-0.26)と推計され、C型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がんリスク低下が考えられました。

さらに8件の研究については、各研究で報告された、年齢や性別等、肝がんのリスクに関連する因子で調整したハザード比(治療群vs非治療群)を抽出し、統合解析を行ったところ、0.25 (95%信頼区間:0.19-0.34) と推計されました(図1)。いずれの解析においても、条件を変えた感度分析を行いましたが、結果は不変でした。

図1_調整ハザード比の統合解析

 

今回の系統的レビューでは、抗ウイルス療法がC型慢性肝炎による肝がん罹患の予防に有効であることが示され、二つの方法によるメタ・アナリシス(単解析の統合解析と、調整後ハザード比の統合解析)で、抗ウイルス療法により、肝がんのリスクがほぼ4分の一に減少することが明らかとなりました。

結論

今回のレビュー結果および生物学的機序を総合的に検討した上で、日本人においてC型慢性肝炎における抗ウイルス療法と肝がんリスク低下についての科学的根拠は「確実」であるという結論になりました。

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