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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

肥満指数(BMI)と食道・胃がんリスク

日本のコホート研究のプール解析

肥満指数(BMI)と食道・胃がんリスク

食道がんと胃がんは日本でとても多くみられるがんで、2019年に新たに診断された食道がんおよび胃がんはそれぞれおよそ2.6万件および12.4万件でした。食道・胃がんの病因は多様で、組織型や部位によっても異なるとされています。日本人の食道がんの主要な組織型である扁平上皮癌は、飲酒や喫煙と強く関連しています。一方で、白人に一般的な組織型である食道腺癌は、肥満と喫煙が主なリスク因子です。胃がんでは、胃噴門がん(食道からつながる胃の入り口のがん)の病因は、食道腺癌と同じく肥満や喫煙ですが、日本人によくみられる非噴門がんはヘリコバクターピロリ感染や喫煙が関連しています。

これまでの研究で、肥満指数(BMI)と食道腺癌や胃噴門がんとの間に正の関連が確認されています。また、BMIと食道扁平上皮癌との間には負の関連があり、BMIと胃非噴門がんとの間には明確な関連がないことも示されています。ただ、これらの評価は主に欧米人を対象とした研究に基づいたもので、肥満の人が比較的少なく、食生活や生活習慣、遺伝的背景が異なるアジア人にも当てはまるかを明らかにすることは重要です。しかし、アジア人を対象としたBMIと食道・胃がんとの関連を検討したこれまでの研究は、結果が一貫しておらず、特に食道腺癌や胃噴門がんとBMIとの関連は十分に検討されていませんでした。

そこで、今回、日本を代表する10コホート研究から39万人以上を統合したプール解析を行い、日本人におけるBMIと食道・胃がんとの関連を組織型別・部位別に検討し、その研究成果を専門誌において発表しました。(Cancer Sci. 2023; 00: 1- 12. doi:10.1111/cas.15805

このプール解析に参加したのは、JPHC-IとJPHC-II(いずれも多目的コホート研究)、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、高山コホート研究、3府県大阪コホート研究、放影研寿命調査の10研究です。ベースライン(調査開始時)BMIと食道・胃がんとの関連は、食道・胃がんリスクに影響を与えうるBMI以外の要因(性別、年齢、地域、喫煙、飲酒、糖尿病の既往、野菜・果物摂取、塩分摂取、緑茶摂取、運動)の偏りが、結果に影響を与えないように統計的に調整した上で評価しました。

平均で13.8年の追跡期間中に、1,569例の食道がん(1,038例の扁平上皮癌と86例の腺癌)および11,095例の胃がん(728例の噴門がんと5,620例の非噴門がん)が確認されました。図1はBMIの5 kg/m2増加毎の各がんリスク(ハザード比 [HR])を示しています。食道がん全体では、BMIとの間に負の関連を認めました(HR 0.59, 95% 信頼区間 [CI] 0.52-0.67)。組織型別の解析により、この負の関連は扁平上皮癌のみで認められ(HR 0.57、95% CI 0.50-0.65)、腺癌では認められない(HR 1.01, 95% CI 0.69-1.48)ことが明らかになりました。さらに、食道がん全体及び食道扁平上皮癌で認められた負の関連は、喫煙者においてより強く観察されました(食道がん全体、HR 0.52, 95% CI 0.46-0.58; 食道扁平上皮癌、HR 0.49, 95% CI 0.43-0.57)。胃がんでは、胃がん全体とBMIとの間には弱い負の関連が認められました(HR 0.96, 95% CI 0.93-1.00)。しかし、部位別の解析では、胃噴門がんでは正の関連(HR 1.15, 95% CI 1.00-1.32)を認めた一方、胃非噴門がんでは明らかな関連は認めませんでした(HR 0.99, 95% CI 0.94-1.03)。

図1. BMI 5-kg/m2増加毎のハザード比(HR)と95%信頼区間(95% CI)

この研究は、アジア諸国で最大の前向き研究のひとつであり、これまでの欧米人を対象とした研究による知見同様、日本人においてもBMIの食道・胃がんへの影響は組織型や部位によって異なることが示され、食道・胃がんの予防戦略に重要な示唆をもたらしました。特に、喫煙者において認めた食道扁平上皮癌とBMIとの間の強い負の関連は、喫煙と痩せていることの間の交互作用の存在を示唆し、食道扁平上皮癌のリスク低減に、喫煙とBMIの両方を一緒に考慮することが重要であると言えるかもしれません。一方で、食道腺癌については本研究でも明らかな関連を観察できませんでした。原因のひとつとして、食道腺癌の症例数がわずか86例であったため、推定値が不安定になったことが考えられます。したがって、食道腺癌におけるBMIの影響を評価するためには、アジア人を対象としたより大きなサンプルサイズのさらなる研究が必要です。

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