科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
肥満指数(BMI)と甲状腺がんリスクとの関連
アジアコホートコンソーシアムにおける13つのコホート研究のプール解析
肥満指数(BMI)と甲状腺がんリスクとの関連
甲状腺がんは世界的には多くはなく、罹患者の60%をアジアが占めています。先行研究から、肥満指数(BMI)が大きいほど甲状腺がんのリスクが増加することが示唆されていますが、アジア人に関する研究は少なくよくわかっていませんでした。そこで、本研究ではアジア人を対象とする13の前向きコホート研究を統合して、参加者約54万人のBMIと甲状腺がんの罹患との関連を調べました(Thyroid. 2022;32(3):306-314)。
BMI(kg/m2)は、18.5未満、18.5–22.9、23.0–24.9、25-29.9、30.0以上のグループに分け、18.5-22.9kg/m2を基準として、その他のグループのその後の甲状腺がんの罹患リスクを調べました。
参加者約54人のうち、約15年間の追跡期間中に、甲状腺がんに罹患した人は1132人でした。甲状腺がんの罹患リスクは、男性では統計学的な有意差はありませんでしたが、太っている(BMIが25.0-29.9kg/m2)グループで1.3倍、非常に太っている(BMIが30kg/m2以上)グループでは1.8倍と、BMIが大きくなるにつれ甲状腺がんの罹患リスクが高くなる傾向がみられました。女性ではBMIと甲状腺がんの罹患リスクに関連はみられませんでした(図1)。また、20歳からの体重増加でみると、男性で体重が5kg増加するごとに甲状腺がんの罹患リスクが25%増加していましたが、女性では関連はみられませんでした。
図1.BMIと甲状腺がんのリスク
本研究の結果から、アジア人の男性では、体重が増加すると甲状腺がんの罹患リスクが高くなる傾向がみられましたが、女性では関連がないことが明らかになりました。複数の公表された研究をまとめたメタアナリシス研究においても、体脂肪が多いと甲状腺がんのリスクが高いことや、女性よりも男性で、肥満と甲状腺がんのリスク増加と強い関連があることが報告されています。
肥満になると、肥満細胞が血糖値を正常範囲に戻すために過剰なインスリンを必要とすることや、体に炎症を引き起こす等、体の機能に悪い影響を与えることから、甲状腺がんのリスクを増加したことが考えられます。また、甲状腺刺激ホルモンには細胞分裂を促す作用があり、過体重や肥満の人でこのホルモンの値が高いこともわかっています。
女性で関連がみられなかった理由として、甲状腺機能に影響を与えるホルモンであるエストロゲン(女性では閉経後に分泌が減少する)や出産による影響が考えられます。男性では年齢が上がるにつれ甲状腺がんの罹患リスクが増加しますが、女性では閉経前の甲状腺がんのリスクが高かったことや、女性では出産経験のない人と比べて出産経験のある人では甲状腺がんのリスクが高かったという報告があります。
本研究は、アジア人を対象とした前向きコホート研究をまとめた近年で一番規模の大きい研究です。今回の研究の限界として、一時点の体格を用いて調べているため追跡期間中の体格の変化を考慮できていない点や、甲状腺がんの部位別について報告のあった研究数が限られており、すべての部位別について調べられていないことなどがあげられます。