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科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

女性生殖要因と肺がんリスクとの関連

アジアコホートコンソーシアムにおける11のコホート研究のプール解析

出産や初経・閉経年齢などの女性特有の生殖要因やホルモン剤の使用と肺がんリスクについて、これまで欧米諸国やアジアにおいて研究が行われていますが、一貫する結果は得られていません。また、これらの研究の多くは、主に肺がんの罹患リスクについて調べた研究が多く、死亡リスクについては報告が少なくよくわかっていません。そこで、本研究では、日本、韓国、シンガポール、中国のアジア人を対象とする11の前向きコホート研究(合計約30.8万人)を統合して、アジア人女性における生殖要因と肺がんの罹患および死亡リスクとの関連を調べました(Int J Cancer. 2024年2月Web先行公開)。

女性生殖要因として、出産経験、出産回数または子の人数、初産年齢、初経年齢、閉経年齢、初経から閉経までの期間、生理周期と肺がんリスクについて調べました。また、肺がんの組織型別では、女性ホルモン剤の使用歴と肺がんリスクについても調べました。

約16年間の追跡期間中に、3119人が肺がんに罹患し、2247人の死亡が確認されました。

出産経験がない女性と比べて、出産経験がある女性の肺がんの罹患リスクは18%、死亡リスクは22%低下しました(図1、図2)。さらに、出産経験がある女性を喫煙経験で分けた場合、喫煙経験のある女性のみ、肺がんの罹患リスクが低下しました(図なし)。分娩回数および子どもの数別では、1~2回(または人)で、肺がんの罹患および死亡リスクが低下しました(図1、図2)。また、初産年齢の低い(20歳以下)女性と比較して、高い(21~25歳、26歳以上)女性では、肺がんの罹患および死亡リスクが低く、閉経年齢では、早い(45歳未満)女性と比べて遅い(55歳以上)女性で、肺がんの死亡リスクが25%低かったこと、さらに、初経から閉経までの期間が短い(30年未満)女性と比較して長い(37年以上)女性では、肺がんの死亡リスクが17%低いという結果でした(図2)。一方で、ホルモン剤を使用したことがない女性と比較して、使用したことがある女性では、非小細胞肺がんの罹患リスクが31%高くなりました(図なし)。

本研究は、アジア人女性を対象として、女性生殖要因と肺がんの罹患、および死亡リスクの両方を検討した大規模な研究です。ただし、本研究では、喫煙習慣の経時的な変化を検討できていないことや、複数のコホート研究のデータを用いており、ホルモン剤について種類別に検討できていないことなどから、さらなる研究の蓄積が必要です。

 

図1 女性生殖要因と肺がん罹患リスク

 

図2 女性生殖要因と肺がん死亡リスク

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