科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
体格指数と乳がんリスク
東アジア人のコホート研究のプール解析
乳がんは世界的に最も多い女性のがんです。 アジア諸国の乳がん罹患率は、欧米諸国に比べ低い水準にとどまっていますが、中国、韓国、日本では近年増加しています。
閉経後女性では、体格指数(BMI: body mass index)と乳がん罹患リスクに正の関連があることがよく知られています。
閉経前女性では、欧米人ではBMIと乳がん罹患リスクに負の関連が示されていますが、アジア人では、同様の関連がほとんど観察されていませんでした。2014年には、日本の前向き住民コホート研究に参加した女性約20万人を対象とした統合分析で、閉経前女性におけるBMIと乳がんリスクとの間に正の関連が示唆されました。しかし近年、2021年の韓国人女性約660万人、2022年の日本人女性約80万人の後ろ向きコホート研究で、健康診断情報を分析した結果、BMIと閉経前女性の乳がん罹患率に負の関連がみられました。
このように、東アジア人女性におけるBMIと乳がん罹患リスクとの関連は、特に閉経前女性において不明確でした。
本研究では、日本、韓国、中国における13のコホート研究の319,189人の女性を対象に、BMIと乳がん罹患リスクの関連性を評価するためのプール解析が実施されました。追跡期間中に4,819人の女性が乳がんを罹患しました。
【参加したコホート研究一覧】
日本:多目的コホート研究(JPHC-I・JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、3府県コホート研究(宮城・愛知)、大崎国保コホート研究、高山コホート研究、放影研寿命調査
韓国:Korean Multi-center Cancer Cohort Study (KMCC)、Korean National Cancer Center Cohort Study (KNCC)、The Namwon Study
中国:Shanghai Women’s Health Study (SWHS)
閉経前女性でのBMIと乳がんとの関連
50歳未満の乳がん罹患リスクとBMIとの間には有意な関連性はみられませんでしたが(図1)、BMI上昇に伴うリスクへの影響が、出生コホートの年代が若くなるにつれてリスク増加からリスク減少に変化しました(図3左:ハザード比1超はリスク増加、1未満はリスク減少を示す)。一方、50歳以降の乳がんの罹患リスクはBMIが上昇するほどわずかに増加し(図2)、その傾向は年代の古い出生コホートほど顕著でした(図3右)。
閉経後女性でのBMIと乳がんとの関連
欧米人と同様に、BMIが上昇するにつれ乳がんリスクが着実に増加しました。
本研究では、東アジアの閉経前女性では、肥満と乳がんの増加に伴い、BMIが乳がんリスクに及ぼす影響が変化している可能性が示唆されました。閉経後の乳がんリスクとBMIの間には強固な正の関連が確認されました。