科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
乳製品摂取と全死亡及び死因別死亡との関連
日本のコホート研究のプール解析
乳製品はカルシウムなどのミネラル、ビタミン、たんぱく質などの重要な栄養素を含む、人々の食生活に欠かせない食品です。これまで多くの研究で、乳製品摂取と全死亡および死因別死亡との関連が検討されてきましたが、結果は一貫していません。
過去10年間のメタ解析では、乳製品摂取量と全死亡との間に明確な関連はみられず、がんや循環器疾患による死亡についての結果は一致しませんでした。先行研究の結果には地域差によるばらつきが大きく、特に東アジアでは乳糖不耐症が多いため、乳製品摂取量が欧米よりも著しく少ないことが影響していると考えられます。日本では2019年の国民健康・栄養調査によると、成人の平均乳製品摂取量は約110.7g/日と報告されており、その量は欧米の約3分の1にとどまります。欧米では多くの研究が行われている一方で、日本人を対象に乳製品摂取と死亡リスクの関連を検討した研究は限られています。
そこで本研究では、日本における10地域住民コホート研究に参加した男性180,267人、女性218,423人(うち男性41,218人、女性28,659人が追跡期間中に死亡)を対象にプール解析を実施し、男女別に乳製品摂取と全死亡および死因別死亡との関連を検討し、その研究成果を専門誌に報告しました。(Int J Epi, 2025 October. https://doi.org/10.1093/ije/dyaf180)
このプール解析に参加したのは、多目的コホート研究(JPHC-I・JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、3府県コホート研究(宮城・愛知・大阪)、大崎国保コホート研究、高山コホート研究、J-MICC研究の10コホート研究です。
本研究では、アンケート調査の結果から得られた牛乳・ヨーグルト・チーズの摂取頻度からこれら3品目の摂取量を合計した総乳製品摂取量(g/日)を計算しました。各乳製品の摂取頻度は、「週1回未満」「週1~2回」「週3~4回」「ほぼ毎日」の4群に、総乳製品摂取量は総エネルギー摂取量で補正したうえで、摂取量順に4群(Q1~Q4)に分類し、摂取量が一番少なかった群(Q1)を基準として、その他の群のリスクとの関連を検討しました。解析にあたっては、年齢、地域、体格、喫煙、飲酒、余暇活動、糖尿病の既往、高血圧の既往、総エネルギー摂取量で統計的に調整しました。
総乳製品摂取量と全死亡及び死因別死亡との関連
男性では、明確な用量反応関係はみられませんでしたが、総乳製品摂取量が最も低い群(Q1)に比べて、Q2およびQ3では全死亡がそれぞれ約6%・7%低く、がん死亡も約8%・6%低下していました。また、Q3では循環器疾患死亡が約9%、脳血管疾患死亡が約16%低下していました。女性では、Q3では全死亡が約5%低下し、Q4では循環器疾患死亡が約12%低下していました。(図1)
図1.男女別総乳製品摂取量と全死亡及び死因別死亡との関連
各乳製品の摂取頻度と全死亡及び死因別死亡との関連
牛乳を「ほぼ毎日」飲む人は男性で36%、女性で44%、「週1回未満」は男性で35%、女性で27%でした。男性では、「週1回未満」の群に比べて「ほぼ毎日」飲む群で全死亡が約6%、循環器疾患死亡が約11%、脳血管疾患死亡が約19%低下していました。一方で、がん死亡や虚血性心疾患死亡との明確な関連は認められませんでした。女性では、牛乳摂取頻度が高いほど脳血管疾患死亡が低下しました。また、「週3~4回」の摂取で全死亡および循環器疾患死亡がそれぞれ約8%低下していました。(図2)
ヨーグルトを「ほぼ毎日」摂取する人は男性8%、女性14%、チーズは男女とも約2%で、多くの人は「週1回未満」でした。ヨーグルトおよびチーズの摂取頻度については、男女ともに明確な関連は認められませんでした。(図3&4)
図2.男女別牛乳摂取頻度と全死亡及び死因別死亡との関連
図3.男女別ヨーグルト摂取頻度と全死亡及び死因別死亡との関連
図4.男女別チーズ摂取頻度と全死亡及び死因別死亡との関連
まとめ
本研究では、日本の10コホート、約40万人を対象としたプール解析の結果、牛乳摂取量が多い人ほど全死亡、虚血性心疾患、脳血管疾患による死亡リスクが低く、特に男性で顕著でした。総乳製品摂取では、Q2およびQ3群で全死亡リスクが男女とも低下し、男性ではがん死亡も低下していましたが、明確な用量反応関係はみられませんでした。ヨーグルトおよびチーズ摂取との明確な関連は認められませんでした。
本研究の強みは、大規模かつ複数の前向きコホート研究を統合した点であり、日本人集団における代表性の高い結果を示しています。一方で、乳製品摂取を研究開始時に一度のみ評価していること、低脂肪乳と全脂乳を区別できなかったことが限界として挙げられます。
本研究の結果から、乳製品摂取は男女とも死亡リスクの低下と関連し、特に牛乳摂取が脳血管疾患死亡の低下と関連する可能性が示唆されました。これらの結果は、乳製品摂取量が少ない東アジア地域において、週に数回程度の牛乳摂取が健康維持に有益である可能性を示しています。

