科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
喫煙・飲酒と頭頸部がん罹患との関連
日本のコホート研究のプール解析
頭頸部がんは、口腔、咽頭、喉頭、鼻副鼻腔などに生じるがんの総称です。これまでも喫煙と飲酒は頭頸部がんの代表的な危険因子として知られていましたが、日本人を対象として、両者の組み合わせによる影響や、頭頸部がん全体のうちどの程度の割合がこれらに関連しているかを前向き研究で詳しく検討した報告は限られていました。
また喫煙も飲酒もする人では、どちらか単独の人と比べてがんのリスクが大きくなる交互作用という現象があると考えられていますが、交互作用を示せていない研究も多く、十分に証明されてはいない状況でした。
本研究では、日本の11の前向きコホート研究から、男性204,960人、女性229,471人、計434,431人を対象にプール解析を行いました。追跡期間中に確認された頭頸部がんは、男性1,425例、女性410例、計1,835例でした。各コホートで喫煙・飲酒と頭頸部がん罹患との関連を解析し、その結果を統合して、喫煙と飲酒の組み合わせによる頭頸部がん罹患リスクとその交互作用、および集団全体でのリスク要因の保有割合を考慮した人口寄与割合(Population Attributable Fraction, PAF)を推定しました。PAFとは、その要因によって起こっていると考えられるがんの割合、言い換えると、その要因がなければ防ぐことができたと考えられるがんの割合を意味します。また通常の交互作用の研究では、その大きさを乗法的(かけ算)スケールでのみ検討しますが、本研究ではより小さな交互作用でも検出できるように加法的(足し算)スケールでも交互作用の検討を行いました。こうして求めた交互作用を考慮することで、頭頸部がんのどれだけの割合が飲酒や喫煙によって発生したのかを明らかにしました。(Int J Epidemiol, 2026 Apr. https://doi.org/10.1093/ije/dyaf180)
このプール解析に参加したのは、多目的コホート研究I・II、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究、高山コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究、放影研寿命調査、日本多施設共同コーホート研究です。
喫煙・飲酒の評価
研究開始時の質問票から喫煙と飲酒の情報を取得しました。喫煙は喫煙歴なしと喫煙歴ありに分類し、飲酒は飲酒歴なしと飲酒歴ありに分類しました。さらに男性については累積喫煙量(pack-year)を0、0超40以下、40超の3群に、1日あたりのエタノール摂取量を23g未満、23g以上46g未満、46g以上の3群に分類して追加解析に用いました。
喫煙・飲酒と頭頸部がん罹患との関連 交互作用と寄与割合
男性において、喫煙と飲酒はいずれも頭頸部がんリスクの上昇と関連していました。喫煙歴・飲酒歴の組み合わせ別の解析では、喫煙も飲酒もしない群を1とした場合のハザード比は、喫煙歴なし・飲酒歴ありで1.13、喫煙歴あり・飲酒歴なしで1.34、喫煙歴あり・飲酒歴ありで2.34でした(図1)。乗法的交互作用の指標であるMIは1.55、加法的交互作用の指標であるRERIは0.87であり、交互作用の存在が示されました。これによって男性では喫煙と飲酒の両方がある場合にリスク上昇がより大きく、両者が相互に影響し合って頭頸部がんリスクを高める可能性が示されました。
男性ではさらに喫煙量・飲酒量を3群ずつに分けた解析を行い、喫煙量・飲酒量が多い群で同様にリスク上昇と交互作用が認められました。
一方、女性では喫煙のみが頭頸部がんリスクの上昇と関連していました(図2)。喫煙なし・飲酒なし群に対して、喫煙なし・飲酒ありでハザード比1.10、喫煙あり・飲酒なしで1.70、喫煙あり・飲酒ありで2.09でしたが、有意な交互作用は認められませんでした。
男性についてPAFを推定したところ、喫煙歴に関連する割合は41.4%、飲酒歴に関連する割合は33.6%でした(図3)。この喫煙と飲酒の割合を単純に足すと75.0%になりますが、実際に喫煙または飲酒に関連する割合は46.9%でした。これは、喫煙と飲酒の両方が関与して発症した頭頸部がんが一定数存在する可能性を示しています。
部位別にみると、喫煙のPAFは喉頭がんで大きく、飲酒のPAFは下咽頭がんで大きい傾向がみられました。頭頸部がん全体としては喫煙と飲酒の両方が罹患に大きく寄与しますが、それぞれの罹患への寄与の大きさは部位によって異なることが示されました。
この研究について
本研究は、日本の11の前向きコホート研究を統合した大規模解析により、喫煙と飲酒が日本人の頭頸部がんリスクに関連し、特に男性では両者が重なることでリスクがさらに高まる可能性を示しました。また、喫煙量・飲酒量が多いほど、リスクが高まる傾向も認められ、曝露量の重要性が示唆されました。さらに、PAFを用いることで、頭頸部がんのうちどの程度が喫煙や飲酒に関連しているかを示し、予防の観点からの重要性を分かりやすく示しました。これらの結果は、頭頸部がん予防において、たばこを吸わないこと、お酒を控えることが重要であることを示すとともに、喉頭がん、咽頭がんそれぞれの特徴を踏まえた予防戦略を考えるうえでも役立つと考えられます。

