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日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE)

日本人における腎機能のゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析

 

-日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE)からの成果報告-

 日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE:Japanese Consortium of Genetic Epidemiology studies)より、腎機能のゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析を行い、研究成果を専門誌に発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2024年4月オンライン掲載)。

研究背景

 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD)は人工透析が必要な末期腎不全に至るリスク因子であり、患者数は増加傾向です。2011年現在において、日本の成人人口の約13%に当たる1,330万人がCKD患者と言われており(国立循環器病センターHPによる)、糖尿病・高血圧などの生活習慣病がリスク因子となり、CKDは末期腎不全や心血管疾患のリスク要因となるため、その予防は公衆衛生学的に重要です。

 一方で近年、ヒトの全ゲノムにわたる一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)を中心とする遺伝子多型と病気や病気の診断指標となる検査データに関する関連解析であるゲノムワイド関連研究(genome-wide association study, GWAS)が盛んに行われており、がんや循環器疾患などの生活習慣病の遺伝的要因が次々と明らかになっており、CKDについても国内外でGWASが行われ始めているが、10万人以上の日本人大規模健常人集団におけるGWASはまだ報告がなかったため、今回、国内大規模ゲノムコホート研究である多目的コホート研究(JPHC Study)、東北メディカル・メガバンク(TMM)、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)の3大ゲノムコホート研究のGWASデータ及びバイオバンクジャパン(BBJ)のGWAS要約統計量公開データ(https://pheweb.jp/)を用いて、GWASメタ解析を行いました。

研究方法

 今回の研究では、腎機能の指標として血清クレアチニン値(SCr)と推算糸球体濾過量(eGFR)をアウトカム指標とし、eGFRは、日本のGFR基準(eGFR(mL/min/1.73m2)=194×SCr -1.094×年齢-0.287×0.739(女性の場合)(松尾ら、AJKD 2009)に基づいて推定しました。解析対象者はSCrについては、JPHC StudyのGWAS対象者2,741名(JPHC1:510名、JPHC2:2,231名)、TMMのGWAS対象者40,744名、J-MICC StudyのGWAS対象者11,268名およびBBJのGWAS対象者142,097名の計196,850名、eGFRについては、JPHC StudyのGWAS対象者2,741名(JPHC1:510名、JPHC2:2,231名)、TMMのGWAS対象者40,744名、J-MICC StudyのGWAS対象者11,268名およびBBJのGWAS対象者143,658名の計198,411名です。統計解析は、SCrとeGFRのそれぞれの値を性・年齢・主成分で補正後、正規化して線形回帰分析を行いました。ゲノムワイド関連解析の有意水準は、P < 5×10-8としました。

研究結果

 解析の結果、eGFRについて169遺伝子座、SCrについて176遺伝子座が同定され、7番染色体上のCD36(Cluster of Differentiation 36)rs146148222 SNPがSCrと関連する新規座位(既知の座位から1Mb以上離れている座位)として同定されました(図1・図2)。

図1. eGFRのマンハッタン・プロット(Chromosome:染色体、eGFR:推算糸球体濾過量、有意水準:P < 5×10-8

図2. SCrのマンハッタン・プロット(Chromosome:染色体、SCr:血清クレアチニン値、CD36:Cluster of Differentiation 36、有意水準:P < 5×10-8

 

 

この研究について・今後の展望

 CD36遺伝子は染色体7q11.2に位置し、CD36遺伝子の変異は血漿中の脂肪酸やトリグリセリドの異常、インスリン抵抗性を伴う代謝異常と関連しています。

 腎臓は循環から脂肪酸を取り出し、脂肪酸酸化(FAO)は腎臓の酸素消費量の50%以上を占めることが示されています。CD36はマクロファージにおける酸化LDLの取り込みに関与しており、腎障害マウスでは酸化LDLの沈着が腎尿細管で観察され、線維化と相関しています(Jang HS, et al. Front Med 2020)。

 CKDにおけるFAOの減少は、脂肪酸の合成、摂取、消費のバランスを崩すことにより、腎線維症に重要な役割を担っています。脂肪酸のミトコンドリア移行はFAOの律速段階であり、CD36は脂肪酸のミトコンドリア移行における機能を介してFAOに重要な役割を果たしていると考えられています。

 一方、本研究で見いだされたCD36 rs146148222 SNPは日本人特異的SNPであり、GTEx発現データベースに含まれていないため、その機能的意義はまだ不明ですが、CD36遺伝子の多くの機能的SNPが今回のGWASで見いだされたCD36 SNPとLDであることから、日本人の腎機能における本SNPの病因的関与が示唆されます。

 今後、今回の関連の独立したサンプルでの検証が待たれるとともに、CD36をはじめとする遺伝子型に基づく腎臓病予防法につながることが期待されます。

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