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自身の出生体重と成人期後期の生活習慣病の関連について

自身の出生体重と成人期後期の生活習慣病の関連について

   

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究に同意いただいた40-74歳の方々約11万人を対象に、出生体重と心血管疾患を含む5つの生活習慣病の既往歴との関連を調べた結果を、疫学専門誌「Journal of Epidemiology」に発表しましたので、ご紹介します(2023年11月18日Web先行公開)。

 

 低出生体重は、生活習慣病、特に心血管疾患・高血圧・糖尿病のリスク因子になることがヨーロッパを中心とした疫学研究で報告されていますが、日本人の大規模集団では調べられていませんでした。本邦では、1980年から2000年にかけて低出生体重児の割合が約2倍に増加したため、1980年以降に出生した世代が成人期後半を迎えるにあたって、生活習慣病の発症が増加することが懸念されています。そこで、出生体重と成人期後期(40-74歳)における心血管疾患を含む5つの生活習慣病の既往歴との関連を調べました。なお、出生体重と成人期後期の生活習慣病との関連を報告したのは本邦では初めてです。

研究方法の概要

 ベースライン調査で実施したアンケートから把握した出生体重によって、対象者を5つのグループ(1.5kg未満、1.5~2.4kg、2.5~2.9kg、3.0~3.9kg、4.0kg以上)に分けました。同じアンケートから、心血管疾患、高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風の5つの生活習慣病の既往歴を把握し、3.0~3.9kg のグループを基準として、調整有病率比(adjusted prevalence ratio)を算出しました。解析の際には年齢、出生年、性別、教育歴、循環器疾患の家族歴、10歳時点の受動喫煙、ベースライン調査時の身長、年長の兄弟姉妹の有無について統計学的に調整しました。

 

低出生体重は心血管疾患・高血圧・糖尿病と関連

 解析の結果、出生体重が低いことは心血管疾患(図1)・高血圧(図2)・糖尿病(図3)の既往歴と有意な関連を認めました。出生体重が低いことと高脂血症の既往歴の間には弱い関連を、痛風との間には関連を認めませんでした。

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図1:心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)を経験したことがある割合

 

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図2:高血圧を経験したことがある割合

 

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図3:糖尿病を経験したことがある割合

 

今回の研究結果からわかること

 本研究の結果は、主にヨーロッパで報告されていた、出生体重が生活習慣病のリスク因子の1つであるという報告と同じ結果でした。複数の研究の結果をまとめたメタアナリシスでは、出生体重が2.5kg未満の方は、2.5kg以上の人よりも心血管疾患のリスクが1.3倍高いことが示されています。本研究では、出生体重3〜3.9kgの方を基準とすると、心血管疾患は1.5~2.5kgの方は1.25倍(95%信頼区間1.12-1.39)、1.5kg未満の方は1.76倍(95%信頼区間1.37-2.26)と調整有病率比が高いことが示されました(図1)。心血管疾患のリスク因子である高血圧、糖尿病についても、出生体重が少ない方の調整有病率比が高い結果となりました(図2、図3)。
 低出生体重は、早産や胎内での栄養不良といった環境を反映していると考えられています。つまり、本研究は胎児期の環境因子が成人期の生活習慣病のリスクになることを示しています。妊娠中の低栄養から生じる代謝ストレスが引き金となり、胎児にエピジェネティックな変化、レプチンの低下、ネフロン数の減少、インスリンシグナル経路の変化などを引き起こし、それが出生後の栄養過多(胎内と比較した相対的な過多も含む)と相まって、成人期の糖尿病・高血圧・心血管疾患を引き起こす一因となるという機序が想定されています。
 本研究は、出生体重が含まれている成人コホートのデータを用いたため、サンプルサイズが大きいことが特徴ですが、本研究で把握した出生体重は自己申告に基づくことが研究の限界点です。しかし、自己申告による出生体重は実際の出生体重とよく相関するということが、別の研究で示されています。また、本研究における出生体重と心血管疾患の関連は、回答者が生存していて、かつ調査に参加できるだけの健康を有する方に限られているため、選択バイアスが存在することに注意が必要です。さらに、本研究の参加者は1937~1977年生まれの方々で、低出生体重児の増加が問題となっている最近の世代とは低出生体重児となった原因が異なる可能性もあることに留意しなければなりません。今後はより最近の世代を対象とした研究が必須と考えられます。

 

 

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