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自己申告されたがん検診・健診の受診歴の正確さについて

自己申告されたがん検診・健診の受診歴の正確さについて

 

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。過去1年間のがん検診や健診の受診歴の回答がどの程度正確かについて、2016~2020年に実施したアンケート調査の回答と2015~2019年度に自治体が実施したがん検診の記録とを比べた結果を専門誌に報告しましたのでご紹介します(J Epidemiol 2024年6月Web先行公開)。

 肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんは、がんのでき始めを見つけることで、手術などにより完全に治療できることが多いがんです。これらのがん検診を受けて、異常があった場合にきちんと精密検査や治療を受けることで、がんによる死亡を減らすことができることがわかっています。しかし、十分な効果をあげるためには、多くの人にがん検診を受けてもらうこと、つまり、がん検診受診率を高めることが重要です。がん検診受診率は、がん検診受診記録から受診率を算出する方法が海外では多く用いられていますが、日本人のがん検診受診率は、国民生活基礎調査という全国アンケート調査の結果から計算されており、受診率を正しく評価するためには、自己申告による回答の正確さが重要です。これまでに、がん検診受診歴の自己申告妥当性についての報告はありますが、主に、海外からの報告であり、がん検診受診歴についての回答がどの程度正確かは日本では十分に検討されていませんでした。加えて、日本と海外でのがん検診制度の違いなどから、その正確さが異なる可能性があります。

 また、日本では、がん検診とは別に、特定健診などの健診は、高血圧、脂質異常、糖尿病など脳卒中や心筋梗塞になりやすくする状態を早く見つけて、生活習慣の改善や服薬治療を行うことにより、脳卒中や心筋梗塞を予防することを目的に行われています。特定健診の受診率は受診記録から算出されていますので、がん検診とは状況が異なりますが、本研究ではがん検診受診歴と同様に、検討しました。

 

 本研究では、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)の茨城県筑西地域の参加者で、国民健康保険もしくは後期高齢者医療制度に加入している44~80歳の男女のうち、2016~2020年に実施した5年後調査アンケートに回答した6,920人を対象としました。

 5年後調査アンケートの回答とアンケート調査回答年の前年に自治体が実施したがん検診の記録を比較し、一致状況を確認しました。例えば、2016年のアンケートで肺がん検診を受けたと回答した者について、2015年度の肺がん検診受診記録を確認する、というように比較しました。正確さを評価する指標として、感度(受診した人が受診したと回答する割合)、特異度(受診しなかった人が受診しなかったと回答する割合)、一致率(回答と記録が同じであった人の割合)を算出しました。

 

表1.がん検診・健診受診歴の自己申告の正確さ

  感度  特異度 一致度
肺がん検診 49% 86% 65%
大腸がん検診 67% 85% 77%
胃がん健診 77% 79% 79%
乳がん検診 83% 81% 82%
子宮頸がん検診 85% 90% 88%
健診 86% 65% 78%

 

 

 大腸がん、胃がん、乳がん、子宮頸がんでは80%前後が一致した回答をしていました。一方、肺がん検診では、受診した人の中で受診したと答える人が少なく、一致度が低くなっていました。健診では、受診しなかった人の中で受診しなかったと回答する人が少なくなっていました。性別、年齢、教育歴、就労状況などにより回答の正確さが大きく異なるという結果は認められませんでした。

 

この研究結果からわかること

 今回の結果から、がん検診・健診受診歴の自己申告はある程度正しい回答であることがわかりました。ただし、肺がん検診や健診については誤回答もやや多いため、これらについては自己申告を用いてがん検診受診率などを評価する場合には値の解釈には注意が必要です。
 肺がん検診を受けた人が受けたと答えなかった(感度が低い)理由として、日本ではかつて結核検診として胸部X線検査が広く行われてきた長い歴史があり、現在肺がん検診として行われている胸部X線検査を肺がん検診と認識していない人がいる可能性が考えられます。

 本研究の限界として、人間ドックを自費で受診した場合など自治体が実施したがん検診や健診以外の検診・健診機会があった人を正しく評価できなかったため、特異度がやや低く計算されているかもしれません。また、国民健康保険や後期高齢者医療制度以外の保険(被用者保険など)の加入者にこの結果があてはまるかはわからないことも本研究の限界です。

 

 

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