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社会経済的要因と糖尿病有病率との関連について

社会経済的要因と糖尿病有病率との関連について

 

 私たちは、様々な生活習慣と、がん、糖尿病、心筋梗塞などの病気との関連を明らかにし、日本人の生活習慣予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。2011~2016年に、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)対象地域にお住まいで、本研究に同意いただいた40~74歳の男女約11万人を対象に、社会経済的要因と糖尿病有病率との関連を調べた結果を、専門誌に発表しましたので、ご紹介します(Mayo Clin Proc. 2025年2月公開)。

 糖尿病は、世界的に急速に拡大している慢性疾患です。人口の高齢化の影響もあり、日本においても増加を続けています。その成因を理解することが急務となっており、諸外国では収入、学歴、職業等の社会経済的要因と糖尿病有病との関連が報告されていました。しかし、その関連は人種や性別によって異なり、日本人を対象とした幅広い年代での大規模な研究はありませんでした。そこで本研究では、40~74歳の男女約11万人を対象としたアンケート調査と健診データから、社会経済的要因と糖尿病有病との関連を調べました。

 

研究方法の概要

 本研究は、40~74歳の男女112,492人を対象としたアンケート調査をもとに、等価所得(世帯年収を世帯人員の平方根で割って調整した所得)、最終学歴、職業などの社会経済的要因と、自己申告に基づく糖尿病有病率との関連を調べました。等価所得は4等分(四分位:Q1~Q4)のグループ、学歴は最終学歴により3グループ(大学卒業以上、高校卒業、中学校卒業)、職業は「専門職・事務職」、「販売職その他」、「農業漁業従事者」、「肉体労働者」、「無職(専業主婦を含む)」の5グループに分けました。解析時には、Model 1として地域や年齢、Model 2としてさらに糖尿病の家族歴、生活習慣(飲酒や喫煙歴、運動習慣等)、婚姻歴、同居人数、BMI(body mass index: 体格指数)の影響を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。また、アンケートでの未回答項目を統計的に補完することで、欠測によるバイアスもできる限り取り除きました。さらに、男女別の解析、日本における典型的な定年退職年齢である60歳未満と60歳以上に分けた解析も実施しました。

女性では、等価収入および教育歴および職業が糖尿病有病率と関連し、若年者男性では職業と糖尿病有病率との関連が強い傾向があった

 女性では、等価所得が低いグループと教育歴が短いグループで、糖尿病有病のオッズが高いことが示されました(図1、図2)。等価所得の最も低いグループ では、最も高いグループと比較して糖尿病有病のオッズは26%高く、学歴が中学校卒業のグループは大学卒業以上のグループと比較して、糖尿病有病のオッズは20%高いことがわかりました。一方男性では、等価所得や学歴と糖尿病有病との間に統計学的に有意な関連を認めませんでした。
また、無職(専業主婦を含む)のグループは、専門職・事務職と比較して、男女ともに糖尿病有病のオッズが高く、女性では18%、男性では11%高いことがわかりました(図3)。
さらに、60歳未満と60歳以上の2グループに分類した場合、60歳未満のグループにおいて、男性では職業、女性では学歴および職業と糖尿病有病との関連が強い傾向が見られましたが、年齢によるグループ間で、統計学的有意な差はありませんでした(図4)。 

 

 

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図1. 等価所得(四分位)と糖尿病有病率との関連
※ 地域、年齢、糖尿病の家族歴、健康関連行動(飲酒や喫煙歴、運動習慣等)、婚姻歴、同居人数、BMIで統計学的に調整

 

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図2. 学歴と糖尿病有病率との関連
※ 地域、年齢、糖尿病の家族歴、健康関連行動(飲酒や喫煙歴、運動習慣等)、婚姻歴、同居人数、BMIで統計学的に調整

 

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図3. 職業と糖尿病有病率との関連
※ 地域、年齢、糖尿病の家族歴、健康関連行動(飲酒や喫煙歴、運動習慣等)、婚姻歴、同居人数、BMIで統計学的に調整

 

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図4.年齢別(60歳未満と60歳以上)の社会経済的要因と糖尿病有病率の関連

※ 地域、年齢、糖尿病の家族歴、健康関連行動(飲酒や喫煙歴、運動習慣等)、婚姻歴、同居人数、BMIで統計学的に調整

 

まとめ

 本研究では、諸外国と同様に、日本においても社会経済状況と糖尿病の有病率との関連は性別によって異なっていました。女性では、教育期間の短さと世帯収入の低さが糖尿病有病と関連していましたが、男性では一貫した関連は認められませんでした。一方で、無職(専業主婦を含む)は男女ともに糖尿病有病と関連していました。本研究は、日本の7地区の住民115,385人を対象とした比較的大きな研究ですが、都市部にお住いの対象者が少ないことや、横断研究であることなどから、研究結果の日本全体への一般化や因果関係の証明が難しいなどの限界があります。社会経済的地位と糖尿病発症との因果関係、地域、性別や年代におけるその影響の違いについては、今後もさらに検討していく必要があります。

 

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