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ウェブシステム食物摂取頻度調査票の妥当性と有用性の検討
-ウェブシステム食物摂取頻度調査票の妥当性と有用性の検討-
食生活と健康との関連を明らかにする研究では、1人1人の食生活を把握する方法の一つとして、食物摂取頻度調査票(FFQ)という比較的簡易なアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定しています。この調査票による摂取量の妥当性(FFQから推定した摂取量の確からしさ)を確認することは、研究結果の信頼性を確保するために必須の過程になります。
さて、大規模な疫学調査では、一般的に、紙に印刷された調査票(FFQ)を訪問・郵送等により配布し、自宅等で記入のうえ研究事務局に返却してもらいます。この後、事務局で回答を確認して、記入漏れの問合せ、入力・エラーチェックを経てようやく電子データになります。ウェブシステムのFFQ(ウェブFFQ)では、対象者にとっては該当する箇所をクリックすればよいので、該当するマークを塗りつぶす、消す、といった作業が不要になり、回答時間が短縮できる可能性があるうえ、紙媒体のFFQからの電子データ化作業の省略や、システムからの警告による記入漏れ防止により、データの質の向上や研究の効率化に寄与すると考えられます。
この研究では、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)プロトコールに準拠して開発されたウェブシステムのFFQ(食品群・栄養素等摂取量を推定する自記式のFFQ)の妥当性、及び有用性(回答時間・使用感)を、紙媒体のFFQと比較検討することによって、今後の疫学研究において2つのFFQを併用できる可能性を検討しました。ウェブFFQによる妥当性が従来の紙媒体のFFQのそれらと同等であれば、対象者の好みや環境に応じて選択が可能となります。この研究の結果を疫学専門誌に報告しました(J Epidemiol, 2017年)。
次世代多目的コホート研究プロトコール採用地域である5つの地域(横手、佐久、筑西、村上、魚沼)にお住まいの方で同意が得られた255名のうち、40~74歳で年間12日間の秤量食事記録調査(実測値)、紙のFFQ、ウェブFFQのすべてを完了した237名(男性98名、女性139名)を解析対象としました。ウェブFFQへの回答は、インターネット環境をもつ対象者には、各自の環境で回答を依頼、もたない対象者には、指定した調査会場で回答を依頼しました。
妥当性は、ウェブFFQによって得られた摂取量と、実測値との比較によって相関係数を求め、紙のFFQとの値と比較しました。有用性の検討においては、ウェブ・紙のFFQの回答所要時間を比較しました。その際、ウェブFFQの回答所要時間(開始から終了までの全時間をシステムにより計測)が24時間以上の者、紙のFFQの回答所要時間(自己申告)が欠損の者27名を除外した210名で解析しました。
その結果、ウェブ・紙の平均回答所要時間は、それぞれ男性:63分・60分、女性:81分・60分と、ウェブFFQの所要時間が紙のFFQの回答時間よりも長いという結果でした。また、会場でのウェブFFQ回答者(自宅にインターネット環境がない者)のほうが、各自の環境でのウェブFFQ回答者よりも所要時間が長く、平均年齢も高いことがわかりました。しかし、会場での回答者は、紙のFFQの所要時間についても回答時間が長い、という同様の結果でした(男性、図1-1)。すなわち、調査票の回答所要時間には媒体そのものの違いより、年齢が影響するものと考えられました。さらに、全体の8割以上が、ウェブFFQは紙のFFQに比べ、回答が「(とても)簡単」もしくは、「変わらない」と回答しました(図1-2)。
12日間の秤量食事記録調査による実測値と、ウェブFFQによる推定値の妥当性を検討するために、相関係数を求めました。集団における、食事記録による実測値の順位と、FFQによる推定値による順位が一致した場合に相関係数は1に近くなり、値が高いほど妥当性はよい(FFQで推定された摂取量の順位の評価は確からしい)といわれています。ウェブFFQによる推定値の妥当性を検討しところ、多くの栄養素等・食品群別摂取量で中程度の妥当性を示しました。また、これらの相関係数は、紙のFFQの相関係数と同様の結果でした(図2)。
更に、ウェブFFQと紙のFFQの推定摂取量を、少ない順から5等分にわけ(五分位:Q1~Q5)、両者の一致の割合を比較した結果、男女とも多くの栄養素で、の同順位もしくは隣接するグループ(青色)で一致した割合が約80%でした。最もはずれたグループ(下図 オレンジ色)に分類されたのは すべての栄養素において4%以下で、ウェブFFQによる推定値は、紙のFFQとほぼ同様の順位を示し、比較可能なことがわかりました(図3)。
結論として、対象地域の中高年において、紙とウェブの異なるFFQを用いても、両者から推定される摂取量の妥当性は同程度であり、研究効率化の観点からも、今後の疫学研究において、従来の紙による調査票に加え、ウェブ調査票を併用し、対象者の希望に応じて選択することも可能であるということが示されました。