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アクリルアミドの摂取量の変動について

-アクリルアミドの摂取量の変動について-

 

食生活と疾病との関連を明らかにする研究では、食事調査を基に個人の食生活を把握します。その食事調査データは、個人の食品や栄養素などの習慣的な摂取量を推定し、集団において個人の摂取量の多い少ないによって順位付けをすることを目的として用います。食品や栄養素の習慣的な摂取量の推定が可能なのかを把握するためには、複数日の食事記録調査(DR)から摂取量の変動を確認することが必要です。
今回は、JPHC-NEXT研究の12日間のDRを用いて、多い・少ないという順位づけではなく、実際にどのくらいアクリルアミド摂取量を摂取しているか(絶対量)を把握するための検討として、食事調査でアクリルアミド摂取量の変動を調べた結果を専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Nutr J. 2020年2月)。 

アクリルアミドとは

アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤などの原材料として利用されている化学物質で、国際がん研究機関では、ヒトに対して、おそらく発がん性がある物質とされています(グループ2A:5段階評価で上から2番目の分類)。近年、アスパラギンと還元糖という栄養素を含む食品を120℃以上の高温条件下で加工・調理すると、化学反応を起こすことなどによってアクリルアミドが生成され、食品中にも含まれていることがわかりました。

研究方法の概要と結果

対象者は、JPHC-NEXTのプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市に在住で、2012年11月~2013年1月に実施した12日間(各季節ごとに3日間)のDRにご協力いただいた40~74歳の男女240名でした。

まず、DRを何日間程度実施すれば、習慣的に摂取しているアクリルアミド量(絶対量)を把握できるのか検討しました。12日間のDRを用い、個人の1日ごとのアクリルアミド摂取量と個人の12日間の平均アクリルアミド摂取量との差からばらつき(分散)を計算し、合計したものを調査日数で割った個人内変動(個人の中で食べる食品・栄養素の量が毎日変化すること)を求めました。個人内変動が小さいと食事調査に必要な日数が短く、個人内変動が大きいと食事調査に必要な日数が長くなることを意味します。 その結果、アクリルアミド摂取は個人内変動が大きく、習慣的な摂取量を推定するのに必要な食事調査日数は64日と推定されました(図1)。

 

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※±20%の誤差範囲を想定した場合の食事調査日数。想定する誤差範囲が小さいほど調査日数は長くなり、誤差範囲が大きいほど調査日数は短くなる。

次に、アンケートで把握しておくべき食品項目の検討を行うために、アクリルアミド摂取量の個人間変動を用いて、個人間のアクリルアミド摂取量の差には、どのような食品が寄与するのかを確認しました。個人間変動が大きい食品は、個人によって摂取量がばらついている食品であることを意味します(逆に個人間変動が小さい食品は、皆が同じように摂取している食品であることを意味します)。
その結果、個人間変動に寄与する食品(個人によって摂取量のばらつきが大きい食品)は、コーヒー・ココア、じゃがいも、緑茶、さつまいも、ビスケット、和干菓子、スナック菓子の順で、これらの7食品で個人間変動の約90%以上を占めました(図2)。

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この研究からわかること

個人間変動の検討からアクリルアミドの摂取に寄与する主な食品が明らかになりました。アクリルアミドの摂取量をアンケート調査によって把握する疫学研究を行う際には、寄与の大きい食品をアンケートに含める必要があると考えられました。
しかし、DRを用いた個人内変動の検討から、アクリルアミドの習慣的な摂取量(絶対値)の把握には、エネルギーや脂質など主要な栄養素と比べて、比較的長い日数を要することが示唆されました。
したがって、個人の習慣的な摂取量(絶対値)の把握を目的とした場合、アクリルアミド摂取量については日々の個人の摂取量の変動が大きいため、長期間の曝露評価にはバイオマーカーなどの測定誤差が小さい評価法が必要となる可能性が示唆されました。

 

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